君は愛しの人魚姫

まず初めに。長いです。
文字数15000くらいいってます(・ω・´)w
2話に分けようかと思ったんだけど一気に読みたいよね。と、思いまして。疲れるけど、私は一気読み派なのでw

久々に燃えつきましたぞ\(^o^)/
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「──もう、フェイトちゃんの分からず屋!」
「なっ、なりません!姫様、姫さ──なのは!」


いつもの如く。宮殿の通路に、私と側近の悲鳴が鳴り響いたのだった。








『君は愛しの人魚姫』








「姫様。もう、人間の世界は危ないって何度言ったら分かるんです。」


宮殿の通路で。宮殿を抜け出そうと忍んで歩いていた私は、私の一番の側近であり護衛でもある彼女、フェイトちゃんに見つかって捕まってかれこれ小一時間ほどお説教を受けていた。


「……友達に会いに行くくらいいいじゃない。」


仏頂面でそう返す私の名前は高町なのは。陸ではなく海底の奥深くに住む、人魚と呼ばれる種族の、まぁ、王様の娘なので一応王族なのです。あ、人魚って言っても童話に出てくるような感じじゃあないんだよ?ヒレなんてないし、姿は陸の人とほとんど一緒。ただ海の底の国に住んでるっていうだけなの。


「人間なんて…。大体、なのは!貴女には自分が姫であることをもっと自覚してもらわなくてはなりません!」


紅い、いつもは穏やかな瞳を歪めてガミガミ言うフェイトちゃんは私より2つ年上で、日頃からお説教ばかり。小さい頃からずっと側に居てくれて、守ってくれて、誰より私に近しい存在であるはずなのに、当の私の気持ちになんてちっとも気付いてくれない。


「もぉ、分かったよぉ。」


ぶちぶち文句を言いながらそう返すと、フェイトちゃんはちょっとだけ困ったように眉を寄せて微笑んだ。薄金色の綺麗な前髪をくしゃりと掻いてそれから「ごめんね」と言う。


「私はなのはの事を仰せつかっているし、その…人間は……。」
「信用できない?」
「そうですね。人魚姫の童話もありますし。」


フェイトちゃんのその言葉にまたか、と苦笑した。私が人間に会おうとすると必ず兼ね合いに出される話。それは童話の人魚姫の話。人間の王子様に恋をした人魚のお話。


「私、人間になんて恋しないもん。」
「────それでもある日突然やってくるのが恋ですよ。」


私の言葉に、少しだけ困ったように笑ってそんな風に言う。まるで「恋」と言うものを私より良く知ってる口ぶりで。それがちょっとだけ気に食わなかった。私の気持ちなんて知らないで。私は当の昔から、フェイトちゃんしか見ていないというのに。


「でも人魚姫は、大好きな王子様と結ばれて幸せだったんだから良いじゃない。」


だから、何となく反抗したくてそう呟いた。


「そうですね。人魚姫が幸せだったかどうかなんて、誰にも分からない話です。」


それから、フェイトちゃんは肯定とも否定ともとれない言葉を翳して、お説教する前に持ってきた箱を目の前に取り出した。


「ところでなのは───…いえ、姫。」


わざわざ言い直さなくても良いのに。


「なぁに?」
「今宵、なのはの婚約者を選ぶパーティーが催されますから。」
「──────ぇ?」


そう言って差し出された箱には、綺麗に仕舞われたドレス。だけど、そんなドレスから視線をフェイトちゃんに戻す。何ていったのか聞こえなかったわけじゃないけど、聞き間違いなんじゃないかと、そう思って。


「僭越ながら、私が選出させて頂いた相手なので不服はないかと思われます。」


今日すぐにお決め頂かずとも構いませんので、お目通しください。と、そう、いつものスケジュールを離すような淡々とした口調で言った。私はもう17歳になるし、確かにそんな話も出てくることはしばしばあった。だけど、私はそんなもの。決めるつもりなんてないのに。ましてや、想いを募らせているフェイトちゃんからそんな事、言われたくなんてない。


「─────わ、かった。」


急に、世界が窮屈に感じた。フェイトちゃんは私に婚約を進めることを何とも思ってないの?気付かれないように唇を噛み締めて、それから少し休むとフェイトちゃんに告げて、部屋を出るように指示をして。


「では、私は訓練場におりますので。何かありましたらお呼びください。」


ちょっとだけ困ったような表情で微笑むと、フェイトちゃんは一礼して部屋を出て行った。自分の血筋のこともちゃんと自覚してる。人魚の王家の血には、他にはない力がある事もちゃんと自覚してる。人魚の不老不死説の由縁でもある高い治癒効果。それが私達の体内には流れている。だからフェイトちゃんが、私を守るためになるべく人間に近づけたくないって言うのも分かってるつもり。


「だけど……。」


『私が選出させて頂いた相手なので不服はないかと思われます。』


「フェイトちゃんの………ばか。」


私の気持ちなんて知らないで。私のフェイトちゃんへの気持ちに気付きもしないで。


「……そんなパーティーなんて出ませんし。」


ぐす、っと鼻を鳴らして。私は宮殿を抜け出した。





















「─────で?」


私のお気に入りの海岸。海底から出てきて、私は泣いていた。目の前には人間が2人。種族が違くたって言葉が通じればコミュニケーションは取れるわけで、私は前から知り合ってお友達になった人間の子に泣きついていた。


「だって、酷いと思わない?アリサちゃん、すずかちゃん。」


海辺で、私は人間で言うところの水着姿に上着を羽織って唇を尖らせていた。アリサちゃんとすずかちゃんというのは、さっきも言ったように私のお友達。


「酷いもなにも、仕方ないでしょう。そのフェイトは、そういう風に仰せつかってるんでしょう?大体あんた、逃げてきて良いわけ?」


そう溜め息交じりに言ったのはアリサちゃんだった。腕を組んで、そんな風に言うアリサちゃんは乙女心が全然分かってないと思う。


「もぅ。アリサちゃんは乙女心が全然分からないんだから。」
「な、なによすずか…!」


そんなアリサちゃんにそう言ったのはすずかちゃん。この2人が恋人同士だっていうのは知っているから、それがちょっとだけ羨ましくもある。


「フェイトちゃんは、私の事どう思ってるんだろう。」
「それはなのはちゃんがフェイトちゃんにちゃんと聞いてみなきゃ。」
「………でも。」
「意気地が無いんだから。」
「それはアリサちゃんもでしょ?」
「…………。」


私を意気地なし呼ばわりしたアリサちゃんは、すずかちゃんの一言で大人しくなってしまった。それから太陽の位置で、もう午後も遅くなってきた事に気付いて、この後のパーティーの事を考えるととても憂鬱な気持ちになった。


「なのはちゃんは、パーティーどうするの?」
「行きたく、ないなぁ。」





「──────ここに、居たんですか。」


ふいに後ろから聞こえたその声に、ビクリと肩が震えた。低い、酷く不機嫌な声。ゆっくりと振り向いた先、アリサちゃんより薄い金色の、お月様のような色の髪。それから、奥の方に沸々と何かを沸かせた紅い瞳がこちらを見据えていた。


「ふぇ、いと……ちゃん。」


分かる。彼女は今、とても怒ってる。それが怖いくらい伝わってきて、萎縮する私の後ろで。


「フェイトちゃん?」


そう口にしたのはすずかちゃんだった。すずかちゃんは藍色の瞳を二、三度瞬いてフェイトちゃんを見つめていた。アリサちゃんもそれには驚いたようでフェイトちゃんとすずかちゃんの顔を見比べている。


「すずか。」


それから。先ほどまでの怒りをすっかり抜かれたようなフェイトちゃんが、少しだけ驚いたような表情をして、どこか柔らかく「まさか君に会うなんて」と微笑んだのだった。見たことも無いような、そんなフェイトちゃんの表情。胸に鉛が落ちたみたいに、ずしんと圧し掛かった。


「すずか、知り合い…なの?」
「え?えっと……ちょっと、昔。」


恐る恐るそんな風に聞いたアリサちゃんに、すずかちゃんは一度フェイトちゃんを見て伺ったあと、アイコンタクトをして頷いた。どうしてあれだけ人間を良く思っていないようなことを言ってたのに、フェイトちゃんに人間の知り合いが居るんだろう。


「──それよりなのは。」


ちくり、ちくりと心に蟠りが募る。


「パーティーに間に合わなくなります。」


そう言って差し出されたフェイトちゃんの手を。


「────いや。」


軽く弾いた。触れられるのが嫌とでも言うみたいに、拒絶してしまった。無意識にだった。


「なのは………」
「帰って。」


何だか無性に悔しくて、フェイトちゃんを真っ直ぐ見据える。涙が出ないようにするのがやっとだった。


「一人で、帰って。」
「ですが───……」


とても窮屈だった。フェイトちゃんに、この想いが届かないことも。自分が王族の人間であることも。何より、彼女の事を何も知らない自分に気づいてしまったことが一番。ずっと側に居てくれた側近で、私だけの彼女という存在が。自負が、容易く崩れてしまったことが。思えば彼女が私のところに来たのは、彼女が9歳のときの事。それ以前の彼女なんて、私は知らなくて。


「帰ってよ!!!」


何だか急に、私がピエロみたいに思えた。フェイトちゃんが私の側に居るのは、もしかして義務だと思ってなんじゃないかって。本当は望まないことなのに、お父さん達に頼まれたから嫌々してるんじゃないかって。そうだとしたら、凄く凄く、悲しかった。例えば今彼女が着ている漆黒の側近服をウキウキしながら選んだ自分だとか。例えば彼女のところにたまに持っていかれる差し入れを、実は自分で作っていることとか。そんな気持ちが、酷く馬鹿みたいに思えてしまった。義務だと、そんな風に思ってるから私に婚約を勧めたりするんじゃないかと。フェイトちゃんへの「恋心」を、少なくとも愛おしく思っていた自分が、酷く馬鹿みたく思えてしまった。


「─────分かりました。」


私が「帰って」と叫んだ言葉に。フェイトちゃんは一度悲しそうに顔を歪めて、それから深く頭を下げて、そう答えた。


「では。時間までには、どうかお戻りください。」


それから事務的にそう言うと、フェイトちゃんはこちらを振り返ることもせず背中を向けて、海へと戻っていってしまった。橙色に染まった空が滲んで、私はくしゃりと両手で顔を覆った。すずかちゃんが、困ったように私の頭を撫でてくれて、アリサちゃんも背中を撫でてくれた。




「フェイトちゃんの、───ばか…」



波にかき消されるような小さい声で。涙を頬に零しながら私はそう言うしか出来なかった。







































「ほいで──?」
「だから。」
「そんで、フェイトちゃんはなのはちゃんを置いてきたんか。」


そんな友人の言葉に、居所悪く小さく肯定の返事を返した。姫様……私はなのはを海岸に置いて宮殿に帰ってきて、宮殿内の友人のはやてに軽く説教されているところだ。


「だって。仕方ないじゃないか。拒絶されて、無理に連れてくるにも…いかないし。」
「あのなぁー、フェイトちゃん。」


なのはに拒絶されて、すっかり肩を落として帰ってきた私ははやてお手製のコーヒーを啜って、先ほどから「だって」「でも」と繰り返し呟いている。


「そんなに人間が嫌いか……?」


はやての言葉に、何て返せばよいか分からなくて苦笑した。小さい頃の思い出やらなにやら総合的にひっくるめて言えば嫌いの一言しか浮かばない。だけど単にそれだけで終わらせてはいけないような気がする。現にすずかは、とても良い友達だ。私が唯一信用してる。それから、ハラオウンの人たちも。だから、小さく情けなく、本音を漏らした。


「嫌いなわけじゃない。」
「じゃあ、何であんなになのはちゃんに───…」
「怖いんだ。」


そう、怖かった。


「いつかなのはも、人魚姫のように人間に攫われてしまうんじゃないかって……ただそれだけが、どうしようもなく情けなく怖いんだ。」


人間に、あんなにも興味と好意をしめすなのはに、不安を抱いていた。人と恋に落ちた人魚姫を彷彿とする事が多々あって、それは私の生まれの所為もあるのかもしれないけれど、たまらなく怖かった。


「人間と結婚した人魚の末路を思い出させて、なのはがそんな風になったらと思うと恐ろしかったんだ。」


ただ、それだけ。それは私が。


「母さんを、見て来たから。」


私の母は、人魚でありながら人間と恋に落ちた。そうして半分が人間で、半分が人魚である私が、産み落とされた。


「人間と一緒になった人魚の末路を見て来たから。だから───…いたっ!」


そこまで言いかけて、目の前に星が散る。


「阿呆やなー…ほんまに、阿呆や。」


星が消えてきて、ようやくはやてに頭を殴られたのだと気付いた。ちかちかする視界で、はやてはどこから出したのか、分厚い本を手に持っていて。───それで殴ったのか。


「何、するのさ。」
「フェイトちゃんは、どうしたいん?なのはちゃんの事。」
「どう………って?」
「フェイトちゃんがずっと前から、なのはちゃんの事想ってるのは知ってる。だから、その気持ちを、どうしたいん?」


はやての言葉に目が点になった。それは。はやてが言い当てたそれは、私がなのはを、あの姫を愛しているという気持ち。一目で落ちた恋。


「───例えば。」
「んぉ?」
「例えば人魚姫が王子に恋をしたとして。」
「またその話か。」
「人魚姫が泡になってしまわなければならなくなったとしたら、私は人魚姫の代わりに泡になる係だ。」


苦笑してそう言うと、はやては酷く怪訝な顔をした。


「またそれは何とも意味の分からん例えやな。」
「つまりなのはは──…姫様は、私が全てを賭して守る存在で、どんな事があっても幸せでなくちゃならない存在。」
「自己犠牲なんて、そんなん趣味悪いで。」


オエッとか冗談めかして、だけど悲しそうに言うはやてにちょっとだけ笑う。


「もちろん始めから私が犠牲になるつもりなんて無いよ。ただ……私はどんな事があっても、なのはを幸福に導く使命がある。」


だから、私の想いなんてものは皆無に等しい。何よりも先に優先すべきはなのはの事だ。私の想いなんて取るに足らない。なのはを困らせたりなんて、問題外。


「なのはを、極力人間に近づけたりはしたくないけれど、なのはが望むなら無理に引き離したりなんてしないつもり。」


それにすずかが居たから、大丈夫だろう。そう言うとやっぱりはやては少しだけ悲しそうに眉を寄せて、不満そうだった。


「なのはちゃんの気持ちは、知ってるん?」
「────ぇ?」
「フェイトちゃんは何でも自分で決めすぎや。まず一番大切なんはなのはちゃんの本当の気持ちやろ?」
「それは、もちろん。」


はやてが何を言いたいのか分からなくて首を捻る。


「なら、真っ先になのはちゃんの気持ちを聞け。それから、自分のこともっと大切にせぇ。」


そう言ってぐいぐい背中を押すはやて。いつの間にか戻ってきてだいぶ時間が経ってることに気がついた。


「なのはは、まだ帰ってきてないのかな……。」
「迎えに行ったれ。きっと待ってるやろ。」
「でも───…」


どんな顔をして会えばよいのか分からない。あんなに強く拒絶されたのは初めてで、どうしていいか分からなくなった。こんなことで傷ついてたらこの先なのはを守っていくことなんて難しいのに。なのはに婚約の話を進めた時も、今も心臓を何本もの槍で射抜かれたような苦痛が襲っていた。


「長いこと一緒に居て、あんたらちーっとも心が通ってへんで。」
「────ぇ?」


そう返すのと、はやての部屋から追い出されたのはほぼ同時で。はやての言葉の真意というものはまるで掴めなかった。


「なのは………遅いな。」


何かあっては困る。ほんの少し不安が沸いて、焦燥が募る。


結局私はどうするべきか少しだけ思案してから、もう一度先ほどの海岸へと迎えに出たのだった。





































「─────それで、フェイトちゃんは私と同じ学校に来たの。」



フェイトちゃんが帰ってしまって私が泣き疲れて落ち着いた頃。ゆっくりとすずかちゃんはフェイトちゃんとの関係をお話してくれた。


「フェイトちゃんが、半分……ひと?」


そんなの、全然知らなかった。フェイトちゃんが人間と人魚の間に生まれた存在だったなんて。


「うん。本人曰く、人魚の方の血が濃いみたいなんだけどね?」
「それで、すずかとフェイトの関係はなんなのよ。」


そこだけが凄く引っかかっているようで、やや不機嫌気味に声にしたのはアリサちゃんだった。


「関係、かぁ…うーん、お友達が一番近いのかな。」


困ったように、すずかちゃんは紡ぐ。


「フェイトちゃんね、すっごく辛い目に合ってきたの。人魚の血は、心無い人には不老不死の道具だと思われてるから。もちろん、ちゃんとした知識を持っていれば王族限定の力だって分かるんだけど………。」


ちょっとだけ悲しげに目を伏せてお話しするすずかちゃんの言葉に、何となく納得がいった。私が人に近づくことを酷く恐れる理由。人魚姫のお話。


「フェイトちゃんの、お母さんはどうしたのかな……?」


私の言葉に、悲しそうな表情を浮かべたすずかちゃんは一言だけ「フェイトちゃんと一緒」とだけ答える。


「とても大変な目に合って、ある日自分で────…」


その先は言わなかった。その頃のフェイトちゃんはまだ4歳くらいで、小さかったんだって。それからすずかちゃんの学校に転向してきても、周りの子供達のフェイトちゃんへの興味本心の行動は一緒だった。虐めといえばそれまでで、面白おかしくフェイトちゃんが血を流すことを喜んだとか。


「私は、ほら…こっちの世界では貴族だから。私がフェイトちゃんの側に居ることでだんだんそういう事はなくなってね?」


それからフェイトちゃんはハラオウンという家の養子になって、幼少期を過ごした。


「自分の身を守るため、なのかな…?稽古をつけて、だんだんフェイトちゃんは誰にも負けないくらい強くなっていって、それからある日人魚の国に行くってなっちゃった。」


ちょうどその頃私のところに来たんだ。そんな事全然知らなかった。フェイトちゃんの心配だとか不安だとか、何も知らなかった。義務感で私を守っててくれたとしても、私は感謝しなくちゃいけないのに。自分の気持ちばかり考えてて、すごく情けない。本当だったら私がフェイトちゃんを守ってあげなくちゃ、なのに。


「私、フェイトちゃんに謝らなくちゃ……。謝って、それから私の気持ちを────」


フェイトちゃんの過去の話を聞いたからって訳じゃないけれど。自分の我侭だった気持ちにちょっとだけ区切りをつけられた。フェイトちゃんが嫌々私の身の回りの事をしてくれていたんだとしても、私がフェイトちゃんを好きでいる事に変わりは無い。ピエロで結構。これからフェイトちゃんに好きになってもらえるよう努力をする。だから。


「真っ直ぐ伝えてみる。」


静かに微笑むすずかちゃんやアリサちゃんに、そうはっきり口にしたときだった。


「おやおや、もしかして人魚様じゃねー?」


少し軽口めいた、そんな声。その声の方向には、大柄な男の人が3人。見たところ兵士のような格好の人だった。人魚だと一目で見抜くのは難しいのに。


「こっちも上玉だし。」


次いで、急接近してきたその内の1人がすずかちゃんの顎に手をかけた。


「あんた、なにしてんのよ!言っておくけど私たち貴族よ!!」


噛み付かんばかりの勢いで暴れるアリサちゃんに「こっちもこっちで元気がいいな。」と下卑た笑みを浮かべるその兵士らしき3人。私に伸ばされた1人の手を跳ね除けると、もう片方の手が私の髪を掴んだ。


「────っ!!!」


それから息が掛かるくらい近くで私を吟味して、面白そうに笑う。


「なぁ、人魚の血って、不老不死なんだっけ?」


仲間に確認するように。私の髪を掴みながら。その言葉に、底冷えするくらいの恐怖を覚えた。フェイトちゃんは、こんな気持ちを小さい頃から味わってきたのだろうか?怖い。


「あれ?でも確か王族とかだけじゃねぇ?」


だけど知識を持った人が居たのか、仲間内の1人が普通の人魚の血に効果は無い事を呟く。けど。腰の鞘に収めていた剣を、ゆっくりと緩慢な動きで抜く、目の前の兵士は。


「やってみない事にはわからん。」


と。恐ろしいほど楽しげに、そんな風に言ったのだった。


「───…ぃ、やぁ!」


そんなに深くは切らないから大丈夫、なんて楽しそうに言うその人間に、騒ぎ立てるすずかちゃんとありさちゃん。恐怖心が、私の全てを支配していた。ぐっ、と思い切り髪を引っ張られて、私は何も出来なくて目を瞑る。






「その手を、離せ。」





その時。


そんな声が、小さく私の鼓膜を振るわせた。よく知った声。波音にかき消されてしまうほどの小さな声が、遠くから。腹の底から振り絞ったような、低く荒れた声。



彼女が来た。それだけで、恐怖なんてすっかり私の中から抜け落ちる。



「………何か、聞こえたか?」


微かな声だった所為か、私の髪を掴むその男の人にはフェイトちゃんの声は聞こえなかったらしい。でも、錯覚なんかじゃなくて、私には確かに聞こえた。



その瞬間。



ザン、と目の前を鈍い色の何かが抜けた。引っ張られていた感覚は消えて、私は力が抜けるように後ろに後ずさる。そんな私を支えるように、ふわりと誰かが抱き抱えた。



「うぁあぁあああぁぁぁああぁぁぁ!!!!!!」


私を抱きとめたままのフェイトちゃんの頬に散る返り血。見れば、目の前の男の人の腕が、浜辺に落ちていた。


「聞こえなかったの?────離せと、言ったのが。」


静かに低く、呻るように言うフェイトちゃんは私をその場所に座らせると握っていた剣をその人に向けた。フェイトちゃんの登場でいつの間にか開放されたのか、すずかちゃんとアリサちゃんが私の側へと来てくれて3人の兵士は剣を構える。リーダー格だった、腕を落とされた男の人も。

フェイトちゃんは肩で荒く息をしていた。


それから、一斉に。まるで合図でもあったかのように3人がフェイトちゃんへと襲い掛かった。あまりにも不利だと思えた。だってフェイトちゃんがどんなに強くても、相手は3人。それも男の人で、兵士だ。


「はぁぁぁぁぁッ!!!」


なのに、そんな不利さを感じさせる事もなく。フェイトちゃんは舞うように剣を振り、相手をなぎ倒す。1人の剣を受けて、その隙に襲い掛かるもう1人に蹴りを入れて。フェイトちゃんが動くたびに弧を描く薄金の髪が、とても綺麗だった。そういえば私は、彼女の訓練の様子も、戦う様子も見たことが無い。


「ふぇいと、ちゃん………」


よく見ればフェイトちゃんも怪我をしている。なのに、形振り構わず戦う彼女。肩に剣が刺さっても気にしない。相手を倒す事が最優先だというように、数分の乱闘の末、最終的に立っているのはフェイトちゃんだけだった。肩で荒く息をして、血にまみれて剣を握る彼女。いつも穏やかで、私の行動にあたふたしている彼女しか知らなかった。こんな激情が彼女の中にあることも知らなかった。


「フェイト、ちゃん!」


立ち上がって駆け寄ろうとした私を「動くな」と制する腕。その腕はフェイトちゃんの腕で、私に真っ直ぐ手のひらを向けたままフェイトちゃんは遠くの一点を見つめていた。


「──────誰だ?」


左手をだらんと下ろしたまま、フェイトちゃんはその場所に剣を向けた。左手からは、真っ赤な血が垂れ流れていて、私は胸元をぎゅっと握る。


「うむ。大した腕な上に、鋭いとは恐れ入った。」


出てきたのは、そこに転がっている兵士と同じ格好をした男性。威厳とか、制服のバッジからして階級も彼らより上だと伺える。


「…………。」


無言で剣を向けるフェイトちゃんに、その人は少し苦笑をして。


「それ以上やると腕が千切れるぞ?」


余裕を浮かべたまま、ゆっくりと自身の剣に手を添えた。


「腕が千切れても構わない。」


それから、フェイトちゃんは特に気にした様子も泣く真っ直ぐ剣を向けたまま。


「剣を抜け。」


とだけ、真っ直ぐに神経の全てをその人に向けていた。まるで私が知らない人のようなフェイトちゃんに、ちょっとだけ不安が募る。自分の怪我も省みない彼女が不安だった。


「ふぅん…なかなかに良い兵士だな。いや、剣は抜くまい。……私はこいつらの不始末を詫びに来たのだ。こいつらにはそれ相応の処罰を下す。私の部下が、申し訳ないことをした。」


深々と、頭を下げるその人に。フェイトちゃんは剣を向けたまま黙っていた。


「時に、君。───私の部下にならんかね?」


そんなフェイトちゃんに向けられたのは予想外の言葉で。その雰囲気に似つかわしくない笑みを浮かべたその男の人は、急にフェイトちゃんのヘッドハンティングを始めたのだった。


「は?」


すっかり毒気を抜かれたフェイトちゃんは、少しだけ剣を下げて間抜けな声を発した。


「いや、なかなかに良い目をしているのでな。部下に欲しいと思ったまでよ。もちろんそれなりの待遇は用意するぞ?」


そんな悪意の無い笑みに、フェイトちゃんは「ふっ」と一度笑みを漏らして剣を鞘に収める。


「───折角のお誘いですが、お断りします。」
「ほう?階級も思いのままだと言ってもか?」
「えぇ。」


それから一度だけ、紅い瞳に私を映してから。


「私にはこの方より大切に思えるものなんてありはしないので。」


守りたいものも然り。と、真っ直ぐに、そう微笑んだ。それ以上の誘いは無用と判断したのか、その男の人は「残念だ」とそう呟いてから、もう一度深々と謝罪をして転がっている3人と、切り落とした腕を拾って、引きずるようにして去っていった。






「───じゃあ、2人とも気をつけて帰って。」
「うん。フェイトちゃんもちゃんと傷治してね?」
「ありがとう、すずか。───アリサ、すずかの事よろしくね。」
「あんたに言われなくたって分かてるわよ!」


それからひと段落して。そんなやり取りをして、アリサちゃんとすずかちゃんとお別れして。


「私たちも、帰りますか。──姫。」


パーティーはもう台無しですね。そう言って右手を差し出したフェイトちゃん。


「まだ。」
「────ぇ?」


そんな右手を取ることなく、私はそのままだらりと下げられているフェイトちゃんの左手を取る。───と、微かにフェイトちゃんの顔が痛みに歪んだ。


「な、何を───!?」


それからフェイトちゃんを浜辺に倒して、腰まで海水に浸かって座り込んでいるフェイトちゃんの服の、胸元のボタンを盛大に開くと肩口をさらけ出した。片手しか使えないフェイトちゃんに負けるほど私も弱くない。露になった肩口は、刺し傷で真っ赤に染まっていて。一瞬だけ思案して、私はそこに顔を近づける。


「えっ!!───ひ、め…!待って、なのは!」


もう遅い。私はその傷口に口付ける。と、フェイトちゃんが痛みに体を震えさせた。


「ちょっと我慢して!」
「そ、そうではなくて!なのは…ッ!そんなこと、やめッ…!」


傷口に唇を当てて、一瞬怯んでからそっとその場所に舌を伸ばす。ほんの少し鉄の味がした。


「────だ、めだッ!!」


だけど私を強く突き飛ばす事も出来ず、私はフェイトちゃんの傷口を舐めた。それはほんの少しだけ。それだけで、フェイトちゃんの肩の傷が、じんわりと音を立ててゆっくりと治癒していく。まじまじ見ると気持ち悪いけど、フェイトちゃんの傷が治っていくのは嬉しい。


「な、な、何してるんですか!あなたは!」
「───なのはって、呼んでよ。」


む、と唇を尖らせると「何考えてるんですか!」とまた説教くさい一言が飛んできた。治癒の力は私の血だけでなく、体液、つまり唾液にも微かに含まれる。それを利用しただけなのに。


「何がいけないの?」
「い、いっ、いけませんよ!傷舐めるなんて……!///」
「どうして?」
「どうしてって……私なんかの為にその力は───…」
「私が使いたくてもダメなの?私がしたくてもしてはいけないの?」


情けなく私に押し倒されたままで、肩口をさらけ出して若干胸元さえ晒しているフェイトちゃんに真っ直ぐ言葉を投げかける。と、一瞬紅い瞳が情けなく泳いだ。


「そ、れは───…」
「フェイトちゃん、さっき言ったよね?」
「ぇ…」
「私より大切なものなんてないって。」
「─────ッ」


フェイトちゃんを追い詰めていく。確実に。


「確かに、言いました。私には…私にはなのはより大切に思うものなんて無い。自分よりも何よりも貴女が大切で、誰よりも貴女の幸せを願います。誰より貴女を愛しています。」


その言葉に、胸がきゅうきゅうと締め付けられる。真っ直ぐ泣きそうな瞳で私を見つめる紅い瞳。フェイトちゃんは私の唇についたフェイトちゃんの血を、親指で拭う。


「じゃあ…………」
「なので、貴女にはちゃんとした伴侶を───…」


そこまで言ったフェイトちゃんの口を、思い切りパチンと叩いた。「分からず屋」の意を添えて。


「─────なに、するんですか。」


台詞を途中で邪魔された事に不服なのか、少し不機嫌そうなフェイトちゃん。そんなフェイトちゃんに、思い切り大きな溜め息を吐く。


「フェイトちゃん、私の気持ちを優先しようとは思ってないの?」
「心外な。もちろん最優先事項ですよ!」


本当、鈍感大魔王。


「じゃあ、私は自分で伴侶を選びたいの。」
「分かっています。貴女が誰を選んでも、私は───…なのはの側に居て、ちゃんとなのはの幸せを、守るから。」


真っ直ぐに意思を伝えてくれるのは嬉しい。嬉しいんだけど、少し歪んでる。どうしてフェイトちゃんは「愛してる」と言いながら私を自分のものにしようとか、そういうのは考えないのだろう?


「はぁ……。」
「なのは?」
「じゃあ、フェイトちゃんが私の伴侶になるっていう選択肢はないの?」


だんだんイライラしてきた。


「ぇっ」
「私の気持ちが最優先で、フェイトちゃんが私を愛してくれてるのなら、真っ先にその選択肢を選ぶべきだよね?」
「えっ……ぇっと、あの──…」
「だけど、命令みたいになっちゃうのは嫌なの。フェイトちゃんは今まで一度も、私がフェイトちゃんの事を好きっていう事には……気付いてくれなかったのかな?」


フェイトちゃんに馬乗りになったまま、頬をがっちりホールドする私に、フェイトちゃんはぶんぶんと首を縦に振って「全然…」とだけ呟いた。……分かっていた事だけど、なんかむかつく。


「じゃあ、私がその服を選んだのもしらなかったんだ?」
「…………うん。」
「フェイトちゃんの差し入れに届いてたクッキーとかも、私が作ってたって知らなかったんだ?」
「───ぇえっ!?」
「もういい。フェイトちゃんのばーか。」


驚愕の事実を知ったみたいな反応をするフェイトちゃんに、だんだん呆れてきた。


「もういいですー。」


ぷいっとそっぽ向いた私にちょっとだけ申し訳なさそうに苦笑したフェイトちゃんは、頬をひと掻きして、ゆっくり私の頬に手を添えた。それからフェイトちゃんの方を向かせるようにして微笑む。


「ありがとう。なのは。」


ちょっとだけ泣きそうな声でそう囁いて、それから。


「この世界の誰よりも、貴女を愛しています。」


月明かりを浴びて、そう綺麗に微笑んだのだった。


「───ずっと、側に置いてください。貴女を守る側近として。許されるなら、永遠の愛を誓う伴侶として。」
「……いいけど、条件があります。」


だけどそう返した私の言葉が予想外だったみたいで、フェイトちゃんは瞳を少しだけ瞬いた。


「自分の体も、大切にしてよね?さっきみたいなのは、ダメ。」


そんな私の言葉に、フェイトちゃんは小さく笑って約束をくれた。それから2人だけのときは堅苦しい言葉をやめるように、とか色々注文をつけるとフェイトちゃんは「ちょっと注文多くない?」と笑う。


「当たり前でしょう、私はお姫様なんだから。」


そんなフェイトちゃんに、私は冗談めかしてそう微笑んだのだった。


「─────ぁ。」
「ん?」
「フェイトちゃん唇切れてる!」
「ぇっ!───ま、待っんくっ!?///」


ぺろりとフェイトちゃんの唇を舐めるとフェイトちゃんの顔が見たことないくらい真っ赤になった。私より年上の癖に、なんだろう…凄く純情なの?と、思う。


「き、急にそんなことしないでください!///」
「ふぇ?だって、怪我してるから────…」


そう返す私に、フェイトちゃんは口ごもる。不意打ちでよっぽど恥ずかしかったみたい。耳まで真っ赤。


「か、帰りますよ。」
「2人のときはそんな話し方やだー。」
「か、帰るよ。///」


もごもご言うフェイトちゃん。


「あれ?フェイトちゃん、もしかして口の中も怪我してる?」


瞬間、フェイトちゃんが硬直した。


「図星?」
「……………帰るよ。」
「治さなくちゃ───ぁ、ちょっ、フェイトちゃんっ!こらー!」


口の中の怪我も治そうと、フェイトちゃんの服を掴もうとしたその手から。フェイトちゃんは耳まで真っ赤にしたまま一目散に走り出す。


「フェーイートーちゃーん!!!!」


そんなフェイトちゃんを追うべく、私も走り出す。


「フェイトちゃんのヘタレー!!!!!!」
「そ、そんな事言ったって………く、口の中はいいよっ!///」


月が綺麗に浮かぶ夜。私とフェイトちゃんの、声が海辺に木霊したのでした。

その後、私がフェイトちゃんを捕まえたか、捕まえられなかったかなんていうのは余談で。だけどまぁ、私が足が痛いふりとかすれば、慌てて駆け寄ってくるのがフェイトちゃんなので、その辺がどうなったかはご想像にお任せします。




それから数年後、私はそのヘタレと結婚と言うものをした。


立場は、何故か姫と側近という感じで収まっているのが納得行かないけど、そんなこんなで、幸せな日々を送っています。









「…………フェイトちゃん、その指どうしたの?」
「な、なんでもありません。」
「うそ。怪我したんでしょ。」
「いいえ。」
「ぺろぺろするから出しなさい。」
「────…」






……………こんな日々が続いています。


めでたし、めでたし。











FIN






ぺろぺろ!ぺろぺろぺろぺろ!←



はい、こちら本当は短編に載せようかなとか考えていた話。これとは別にもう一つ人魚姫の話を考えていました。とはいっても普通の人魚姫は結構出てるので、人魚は王子でしたがw人魚の王子が人間のお姫様に恋をしちゃうお話……は、またいずれw


ともあれ、長いのにここまで読んでくれてありがとうです…!






テーマ : 魔法少女リリカルなのはStrikerS
ジャンル : アニメ・コミック

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なのフェイ信者ですw
初心者ですが宜しくお願いしますorz
あと、一応リンクフリーです(^^);

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