doubt 05

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「へぇ、良い所に住んでるね。」
「あんまりじろじろ見ないで。」


私の住むマンションに到着して。彼女、フェイト・T・Hは薄く微笑を浮かべて呟いた。それから部屋のカギを開けて小さく忠告すると、私は扉を開けて彼女を招き入れる。

知らない人を部屋に居れるなんてあまり気持ちの良いものではない。まして彼女は犯罪者。それもこの性格だ。心労が増えることに代わりはないけれどコミュニケーションをとっていけば彼女の違った一面も、或いは見れるかも知れないと。そう思っての事。


「ちなみに私から一定の距離を離れると───…」
「分かってるよ。逃げたりもしないし、どうせ行くところもないし。」
「あ……そう。それなら良いけど。」


改めてしようと思った警告。彼女に装着してある機器の説明は要らないようで彼女は面倒臭そうに説明を聞く事を拒んだ。「行くところもない」という言葉が、どうしてか私の胸に小さく鉛を落とす。

そういえば彼女に関する過去の資料が一切なかった事に少しだけ疑問を抱いた。過去の犯罪歴はそれはもう数えきれないほどあるのに、犯罪者に至るまでの経緯や家族構成などの親類の情報が一切なくて。


「とりあえずこの部屋使ってて。……ゲストルームだから好きにしてくれて良いけど。」


それから、余っているゲストルームへと案内した。特に何もないベッドのみがある部屋。本当にそれだけの部屋。


「へぇ…本気で私をここに寝泊まりさせるつもりなんだ?」


不意に後ろに立った彼女の手が私の髪に触れる。けど、きっと反応を楽しんでいるであろう彼女に小さく息を吐いて。


「気安く触らないで。」


それからもう何度言ったか分からない言葉を手短に吐き捨てた。恐がったら相手の思うつぼ。引いたら負け。勝ち負けの問題ではないけれど。


「……つまらないなぁ。」


そんな私に少しだけ息を吐いたのは彼女だった。思ったような反応がなくて、という意味なのかどうかは分からなかったけれど。興味が失せたように視線を落とした彼女はゆっくりと手を離すとそれからすぐに表情を作り変える。


「ところで私シャワー浴びたいんだけど。」


それから取り繕ったような笑みを向けて無遠慮にそう微笑んだ。


「どうぞ。」


そんな彼女に息を吐いてゲストルームに次いでシャワールームへと案内する。簡単に説明して皮肉交じりに「ごゆっくり」とだけ呟いて、彼女を残して私はその場所を後にした。その後直ぐに衣擦れの音が聞こえてほんの少し安堵の息を吐く。

彼女の荷物は何もない。だから、当然着替えもない。彼女にはそもそも何もない。最初に荷物の話をした時、彼女は「その方が身軽だ」なんて笑ったけれどどうしてかその笑みが少しだけ寂しそうに見えた。


「んー…これで良いか。」


それから適当に彼女の丈に合いそうな着替えとタオルを見繕って、シャワールームへと持っていく。本当だったら最初に用意しておくべきだったんだけど、見張りの意も含めて。敢えて後から持っていくことにした。


「着替え此処に置いておく…から……」


そう言って脱衣所の扉を開けた先。浴室の曇りガラスに映るそのシルエットから私は慌てて視線を逸らした。別に見えているわけじゃないのに。シルエットだけでも分かるスラリとした肢体。金髪。

そう言えば彼女は格好良い云々の前に美人だった。性格はどうであれ。

そんな脱衣所に立ち尽くす私に気が付いたのか、カラリと戸の開く音。音に視線を向ければ目の前の扉からゆっくりと姿を現したのは彼女で。ポタポタと滴を垂らしながら、湯気と共に浴室から脱衣所へとやってくる。体を隠そうともせず。


「なに?覗き?」


それからクスッ、と笑みを漏らす。そんなわけがないのに。


「タオルと着替え持ってきただけ。もう出るから……」


それから慌てて視線を背けて棚に着替えとタオルを置いた後、脱衣所を出ようとして。とん、と目の前の壁に手をつく。まるで行く手を阻むみたいに。


「どいて。」
「やだって言ったら?」


ポタ、と彼女の髪を伝う水滴が落ちてほんの少し私と彼女の距離が縮む。息が掛かるくらいの距離。濡れた金髪の奥から覗く紅い瞳が綺麗で、だけどやっぱり恐ろしくて。少しだけ視線を落とす。


「怖いなら、無理しなければ良いのに。」
「え?」


それから、壁に手を突いたまま。少しだけからかうような声音でそう言ったのは彼女だった。そう言った途端、壁から手を離して私が持ってきたタオルを手に取る。髪の水気を取りながら「だから」と続けた。


「だから、私にどうにかされるのが怖いんでしょう?」


そう言って視線を向けずに濡れた体を拭いながら用意した服に袖を通す。


「怖くなんか……」
「監獄に来た時から君は怖がってたよ。最も、気丈に振る舞ってはいたみたいだけどね。」
「…………。」


何も言い返さない私にほんの少し息を吐いたのは彼女。いつもの微笑ではなくて少しだけ眉を寄せて何処か不機嫌な顔をして。


「そうまでしてどうしてジェイルを捕まえたいのかが分からないよ。」


それからぽつりとそう言い放つと直ぐに表情を変えて、いつも通りの微笑を浮かべて、私の髪を捕まえるようにして掴む。少しだけ乱暴に引っ張られて顔を顰めた拍子に、太腿に違和感を感じた。


「や、ッ……!」


太腿に触れる、私の髪を掴む手とは反対の彼女の手。制服のスカートの下で太腿を撫でるその手に唇を噛む。すっかり油断していた自分を叱責すると同時に強く、触れている相手を睨みつけた。


「怖いって、言ったらやめてあげる。」


怖いか怖くないか。そんなの怖いに決まってる。だけど、どうしても目の前の彼女には屈したくなかった。昔から頑固と言われるけれど、自分でも本当にその通りだと思う。


「離、して。」


彼女の期待に沿わず、静かにそう返した私に。何がおかしいのか小さく笑った彼女は太腿に触れたまま私の耳元で「強情だね」と囁くと、私の首元に口を寄せた。両腕で抵抗するも体勢的に不利があって彼女を引き離せなくて。


「なに、す……ッ!」


チクリと刺されるような痛みを首に感じて、それからすぐに彼女はパッと体を引き離す。に太ももに触れていた手も髪を引いていた手も放して両手を上げて微笑んで。


「あまりに君が強情なものだから。」


つい意地悪を。静かにそう言うと濡れたままの金髪を掻き上げて、鋭い紅い瞳を真っ直ぐ私へと向ける。それからわざとらしく「あぁ、言い忘れてたけど」と微笑みを浮かべる。


「明日とある場所で開かれる祝賀会に、件の爆弾魔の一人が来るよ。仲間かどうかは分からないけど何らかの情報は持ってるはず。」
「……え?」


思いもがけない情報。最初から知っていたのか、恐らくわざと言わなかったに違いない彼女を信用していいのか分からないけれど。


「確か市長か誰かの祝賀会があるでしょう?夜。」
「ある……けど。それ、信用していいの?何処からその情報を…?」


やや乱れた服を整えながら真っ直ぐ彼女を見る。


「情報源は秘密。信じるか信じないかは君次第だ。」


クス、と笑みを浮かべたままそう言うと挑発するような瞳を向けて。


「ジェイルを捕まえるまでの間、改めて宜しくね。なのは。」


そう言って握手を求めるように手を伸ばして、ニコリと紅い瞳を細めて微笑んだのだった。

信じるか信じないか。正直、彼女が何を考えているかなんてさっぱりわからない。だけどスカリエッティを捕まえる為には彼女の協力が必要で、そのためなら何でも耐えるって決めた。

彼女が犯罪者でも、悪魔でも。その気持ちは今でも変わらない。


「こちらこそ。」


ぎゅ、と手を強く握って、それから反対の手を彼女の手へと重ねた。握った手はほんの少しだけ温かくてどこか優しかった気がした。






























































着替えを済ませるからとなのはを脱衣所から追い出したフェイトはシャツのボタンを閉めながら鏡に映る自分をぼんやりと見据えていた。監獄から出てまだ一日目。

「よろしく」と言って握られた手を見つめて、それから何も考えていないような瞳で、もう一度鏡に映る自分を見つめる。それから、捜査局に行った時の記憶を反芻していた。












「フェイト様」


初めて連れてこられた捜査局で自由に散歩して歩いていた時の事。、フェイトは女性局員に声を掛けられた。相手は見知った顔の女だった。


「…………どうして此処に?」
「ドクターのお言いつけで。」
「そう。」
「どうぞ、差し上げます。」


手渡されたのは棒付きキャンディー。何の仕掛けもないただの飴だった。


「ありがとう。ところで順調なの?」
「えぇ。お嬢様がこちらに連れて来られるところまで全て計画通りです。」
「ふぅん。」


目の前に立つ局員の恰好をした、部外者。或いは仲間に不愛想な返事を返す。


「して、フェイトお嬢様は、如何ですか?」


それからそう問われた問いに、フェイトは微笑を浮かべて静かに答える。


「こっちも順調だって、伝えてくれる?………ジェイルに。」


それから貰った棒付きキャンディーを口に咥えて「またね」と微笑を浮かべてなのはの待つ捜査室へと戻った。












反芻を終えて顔を上げると鏡に映った自分の顔に息を吐いて。


「…馬鹿だね、本当。」


フェイトは嘲笑ともとれる笑みを零す。それは誰を嘲笑するものだったのか。



分かるのはフェイトただ一人だけだった。



























テーマ : 魔法少女リリカルなのはStrikerS
ジャンル : アニメ・コミック

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いいですよね喰霊……!!!
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なのフェイ信者ですw
初心者ですが宜しくお願いしますorz
あと、一応リンクフリーです(^^);

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