doubt 12

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「さぁ、早く何とかしてよ。」


室内いっぱいに響くほどの声。手の甲で唇を拭いながら、私は泣かないように堪えるので精一杯だった。唇が触れたのが嫌だったわけじゃない。ただ悔しかっただけ。救う力があって、それを行使しない彼女が。救いたいとどれだけ願ってもその知識も力もない自分が。悔しかった。

そんな目の前の彼女は驚いたような表情をして、それから少しだけ失笑した。からかうかのような失笑ではなくて、困ったような顏。


「───君は、どうして身を削ってまで……」


助けたいと思うのか。


「全く私には理解出来ないよ。」


そう呟いて、呆れたような溜息を吐いた。


「あなたみたいな犯罪者に理解されなくて良い。」
「……それもそうか。」


ちょっとだけ苦笑とも取れる笑みを零して、彼女はそうとだけ呟いた。それから「私は約束破りは嫌いなんだ」と一拍置いて言うとそれから「手術具借りて来て」とだけ言った。伸びた前髪で表情は見えなかったけれど少しだけいつもより低い声。いつもより低いその声は、どうしてか酷く澄んでいるように感じた。


「ほら。時間ないんだから早くしてよ。」
「あ、う…ん。」
「それと。」


言われる通りに器具を取りに行こうとして背を向けた私に。


「友達とか、大切な人が居るなら避難させた方が良いかもね。君も逃げて良いよ。」


また私を試すような顏をして、彼女はそう呟いた。彼女は私を仲間だとは思ってない。それは知ってる。もちろん私だってそうだから。彼女は本当に信用に足る人物なのか、それが分からない。考えてることもさっぱり分からないし。


「………そんな事しない。」


もちろん皆に爆弾発見の連絡はするけれど。「逃げて」なんて言わない。


「あなたは天才なんでしょう?それに約束は破らないって今言った。」
「だけど思い通りにいかない事だって、私にも────…」
「だとしてもあなたをここに置いて一人で逃げるような事はしない。私は物事をちゃんと最後まで見極めるし、あなた一人を危険な目にあわせたりなんてしない。」


彼女はきっと失敗なんてしない。どうしてか分からないけど、それだけは確信していた。それだけ言い残して、私は手短に携帯でみんなに連絡を入れて、それから手術具を拝借して彼女の元へと急ぐ。腕の時計を見ると時間が進んでいて、私は軽く下唇を噛む。







「持って、来たけど………」


それから、私は少し肩で息をしながら彼女の元へと戻った。彼女は既にその爆弾の解除に入っていたみたいで静かな声で「そこに置いて」とだけ言う。持ってきたのはごく普通の術用の鋏とか、そういった道具。彼女はその道具を目にしてから口を開いた。


「君はもう行って良いよ。」


居られても気が散るから、なんて。部屋にいた人にはこっそり退出して貰っていて、この部屋には彼女と私だけ。私がここに居ても彼女は特に私を気にしている様子なんてない。冷静な顔で、涼しげな顔で。手元を器用に動かして、その花の土台の蓋を開けていた。


「…ここに居る。」
「監視なんてされなくたって、私は逃げないよ?」


私のそんな言葉に視線を寄せて。彼女は少しだけ苦笑して、それから「用心深いね」と笑う。そんなのは分かってる。彼女が逃げるという万が一を考えているわけじゃない。考えていないかといったらそうでもないけど。


「人に任せて自分だけ安全なところになんて行きたくないの。」


そういう性分なの。手短にそう言うと、彼女は小さく溜息。


「ならそこで見てれば良い。」


それからそうとだけ言って、道具の中から鋏を取り出して無数にあるコードをパチリと切った。的確に。視線を巡らせて、器用に指を動かす。珍しく見る真剣な顔だった。


「アリサとか、すずかは…?」
「下で見張り。……一応他の人がここに来ないようにしてるから。」


彼女の事を信じるしかない、そう思っての判断だった。一応処理班は呼んである。間に合えばそれで良し。間に合わないときは彼女に願うしかない。ここに人がやってきて騒ぎが大きくなったら大変なことになる。それだけは避けたかった。


「ふぅん。……ご苦労様。」


何を考えているか分からないような声でそうとだけ言って。彼女はそっぽ向いて目の前の小箱へと神経を集中させた。たくさんの人の命がかかっている状況なのに、どうしてかとても落ち着いていた。自分も他の人も、もしかしたら死んでしまうかもしれないような状況なのにそれが不思議で。

それは彼女がいるからだって事に、遅れて気が付いた。


天才詐欺師、その呼び名のせいもあると思う。自信満々な性格とか、そういう所も。……彼女が捜査官としての道を歩んでいて、私たちの仲間だったら、犯罪者なんかじゃなかったら。きっと頼りになったんだろうな、なんて。


「……。」


何を考えてるんだろう。馬鹿だ、私。自分がおかしな妄想をしていることに気が付いて、そんな首を横に振って考えを消した。彼女は犯罪者で、その事実は揺るがない。

どうしてこんな事を考えてしまうんだろう。どうして彼女は犯罪者なんかなのだろう。考えても仕方ない事が延々と脳裏を巡る。こんなくだらない事を考えてる場合じゃないのに。

ちらっとだけ、腕の時計に目を向ける。さっきから十数分の時が過ぎていて、緊張した体に汗が滲んで、私は小さく息を吐く。目の前、ほんの少し距離を置いた場所では相変わらず無言で作業に没頭する彼女。その表情からは若干の疲労が伺えた。


「……、」


声をかけようとしても邪魔しちゃいけない気がして口を閉じる。ただ黙ってじっと彼女の動向を見守る事しか出来ない状況に、腕に力を込める。相変わらず手元のそのデジタル盤は猶予の時を刻一刻と削り続けていて、彼女は真剣な顔つきで、デジタル盤に視線もくれず絡まりあうコードを辿っては鋏で切る作業を続けていた。


「あー…」


思ったより手こずったな、と。小さく苦笑するような声。その声にハッとして顔を上げると、彼女は前髪を少しだけかき分けて大きくため息を吐いた。


「止まっ…たの?」
「いや、まだだけど。もう止めるよ。」


デジタル盤に表示された時間は00:07:26とかそのくらい。あと残り7分弱という時間を残して、彼女は大きく背中を伸ばした。

それからコキ、と首を鳴らしてから。最後に残しておいたと思われるコードに鋏を入れて、パチンと音を立てる。

その瞬間にデジタル盤の表示は止まって、残り7分程残したまま彼女は爆弾の解除に成功した。なんということもなく、ほんの少しだけ疲弊した色を浮かべた様子で。


「もう…大丈夫、なの?」
「余程大きな衝撃とか与えなければ、大丈夫じゃない?」


知らないけど、と付け足して。彼女は不敵に微笑む。思ったより疲れたな、なんて言いながら。それから暫くした後に、連絡した爆発物処理班が病院へとやってきて、その爆発物は適切に処理されたのだった。






















「それにしても、アンタって一体何なの?」
「しがない元詐欺師だよ。」


ひとまず事件は落ち着いて、病院を出る途中。質問されたことに、彼女は相変わらず小ばかにするような態度で返答する。


「それは知ってるわよ。ただ…爆発物の処理なんて普通の詐欺師じゃできないでしょ。」


アリサちゃんは小ばかにされる態度に慣れたのか、ちょっとだけ呆れたような息を吐いてそう呟いた。確かにそういえばそう。彼女の知識は、正直膨大すぎる。天才って言ったらそれまでなのかもしれないけど、一体どこでそんな知識を?


「……答える義務を要さない質問には答えたくないね。」


クスッと笑って。彼女はそう呟いて、病院の入り口を抜けて外へと出る。私たちも後を追うようにして外へ出た。

死ぬかもしれないようなことがあったっていうのに、まったくそんな感じがしなかったのは彼女のせいなんだろうか?正直爆弾があったって実感もあまりない。目の前で彼女がやったこと一つで自分が、ほかの人が死んでいたかもしれないっていうのに。

並みの捜査官よりも彼女のほうがよっぽど腕が立つ。但し性格面を除いて。その事実がやるせなくて、私は空を仰いだ。もうすぐ夕暮れ時。夕焼けが眩しくて目を細める。ビルの陰になる夕日をぼんやりと眺めて、そこでほんの一瞬、ビルの一角がキラリと反射したのを見て、心臓が委縮した。


「伏せて!」
「───は?」


咄嗟に伸ばしたその手で彼女を押しのける。彼女を狙ったとは限らない。そもそも私が思っているような物ではないかも知れない。こっちを狙う銃口だなんて勘違いかも。


「──っ、ぁ」


だけど、咄嗟に彼女を押しのけた拍子に。腹部に焼けるような痛みが走る。


「ちょっ…、なのは!?」
「なのはちゃんっ!」


その場に倒れこんだ私を心配して跪くアリサちゃんとすずかちゃんの奥、ぼんやりと歪む視界の中で、酷く狼狽したような表情をした彼女の姿が見えた。
























テーマ : 魔法少女リリカルなのはStrikerS
ジャンル : アニメ・コミック

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初心者ですが宜しくお願いしますorz
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