本当に分からないの?(前編)

なのふぇい。

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「え?」


少し遅めのお昼。だいぶ人の少なくなったラウンジで、不意に声を零したのはなのはだった。なのははフォークの先に赤いトマトを刺したまま少しだけ硬直して、それから私を見る。真っ直ぐ向けられたその蒼い瞳は少しだけ怒りを孕んだようにも見えて、一瞬の躊躇の後で。


「やっぱり、嫌だよね。」


ごめん、と潔く謝罪を口にする。やっぱりまずかっただろうかと、言った後で後悔が押し寄せる。そんな私の表情を見て、ちょっとだけ眉を寄せたなのはは今度は怒りとはちょっと違う感情を滲ませて小さく溜息を吐いた。呆れたような、やれやれと言った感じの溜息。


「……それ、誰に言われたの?」
「えっ…と。同僚の執務官に、その。」


言い淀む私に、なのはは小さく息を吐く。それからフォークに刺したままのミニトマトを口へと運んだ。

実は数日前に同僚の執務官に軽いお願い事をされた。というのもなのはを紹介して欲しいという話。これは恐らく私が10年来の親友という情報を得ての事だと思うのだけど。なぜなら私はこの同僚とあまり接点がなかったから。だから、そんなに良く知りもしない男になのはを紹介すると言うのはとても好ましくなかったのだけど。


「フェイトちゃんの事だからきっと断ってくれてると思うんだけど。」
「……。」
「結構しつこくお願いされたの?」
「ん、実は──…」


同僚の願いをまぁ返事そこそこに流していた私だったのだけど、それは私だから出来る事であって。中々紹介して貰えないと焦れたその同僚は私の部下も面識があると知ると、そっちにも声を掛けたというのがその話の続き。


「ふぅん。」


そんな説明をぽそぽそ答える私になのははそうとだけ言って、それから「じゃあ仕方ないね」なんて小さく笑う。どうしてか、ちょっとだけ嬉しそうな顔に見えた。


「ティアナも困ってたみたいだから、それでどうしようかなって思ったんだよね。でもなのはが嫌ならやっぱり私からはっきり──…」
「いいよ、別に。」
「え?」
「いいよ、その人と会ってお話くらいならしても。」
「で、でも──…」


正直な話をすれば、実はさっきも言った通り紹介なんてしたくない。10年来の親友で幼馴染で、もっと言えばずっと片想い中の相手を何が嬉しくてそんな同僚に紹介しなくてはならないのか。……というのが本音。だけど。そんな思いを行動に出せないのが私で。


「一度くらいなら良いよ。それに、そう言う人は一度会ってきっちりお話しないと他の人にも迷惑かけちゃうだろうし。」


ね、なんて言ってなのははコーヒーを頼んだ。

なのはとは10年来の親友。なのはは可愛いし、実力もあるから局内では結構な有名人だ。だから時々そういう輩がなのはにお近づきになりたくてこんな風に言ってきたりもするのだけど、なのはは色よい返事を出したことはない。(私の知る限りは)だからちょっと安心している面もあるんだけど、でもやっぱり時たま不安になったりもする。同時に10年もなのはに気持ちを告げられない私の情けなさにがっかりしたり。


「そんな事よりフェイトちゃん今週はお仕事忙しいの?」


なんて。自分のふがいなさにしょぼくれている私を余所にそう聞いたのはなのはで、なのははさっきの話なんてもう終わったことのように私の予定を聞いてくるわけで。


「今週はそんなに忙しくないよ。また来月から、ちょっと遠くに行くから。」


だから今週は休暇期間のようなもの。そう言うとなのははちょっとだけ考えるような素振り。


「また長期なの?」
「ん、独り身だからそういうの多いのかな。」


苦笑気味にちょっと冗談っぽくそう言った私に、なのはは「ふぅん」なんて呟いて、それから頬杖をつく。


「今日フェイトちゃんの家行ってもいい?」
「えっ?…いいけど、散らかってるよ?」


そんな風に、片手で頬杖ついていた姿勢を両手に変えて、ちょっとだけ上機嫌に言う。余談だけど長年の付き合いで、なんとなくそういうなのはの気分を察知するのには長けてるつもりだ。散らかってるよ、なんて言う私になのはは「いつもそう言って綺麗にしてるじゃん。」なんて笑う。


「フェイトちゃん、お仕事何時ごろ終わるの?」
「んー、今日はそんなに遅くはないと思うけど…待たせちゃうとは思うから、先に行ってる?」
「んーん、待ってるから大丈夫だよ。」


コーヒーを飲みながらそんな事を言うなのははやっぱり何処か楽しそうで。それから他愛もない話をして過ごして、仕事が終わってから待ち合わせる約束をして私となのははその場を後にしたのだった。





















その後。私の所に件の彼がやって来たのはそれから何時間かした後の事だった。どうやらあの後すぐになのはが彼の所へ行ったのか、或いは偶然会ったとかそういう事があったのだと思うのだけど。あちこちに「紹介してほしい」という彼の迷惑行為が飛び火しないように、なのはが先に手を打ったのかもしれないというのが私の見解。

話を聞いたところ、どうやら見事に取り付く島もない程に玉砕だったらしい。


「───え?」


そんな中。私なら知っているだろうと、不意に彼に聞かれたその質問に私は思わず声を零した。


「知らないの?」
「え、うん…。そう言う話、あんまりした事ないから。」
「そっかー。仕方ないな、うん…。」


私が知らないと言うや否や、とぼとぼと背を向けて歩いていく同僚の背中を見送りながら、私は書類の間違った場所にサインをしていた事に気が付いた。


「………。」


高町教導官には好きな相手が居るらしい。


「………。」


他の誰も目に留まらないほど恋しているらしい。


「……。」


初耳だった。10年来の親友で、これでも情けないながらになのはに片想いを重ねてきたつもり。だから、そんな話を聞いたらそれはもう気が気ではないわけで。







「フェイトさん?」
「え?…ど、どうしたの?」
「えっと、顔色悪いですけど、大丈夫ですか?少し休んだ方が良いんじゃ…」
「あ、平気平気。ちょっと、あの。考え事。」


そう言って書類の端を揃えようと、机にトントンってしようとして。


「あぁあっ…」
「ちょっ、フェイトさん何してるんですか!」


しっかり掴んでなかったせいか、バサバサと書類が床に散らばった。よっぽど動揺し過ぎていたみたい。「具合悪いんでしたら休んでてください」なんて言うティアナに「大丈夫、大丈夫」なんて言いながら書類を拾い上げると、ただ私たちの様子を見ていたシャーリーが小さく息を吐いた。それから手慣れた動作でウィンドウを展開してパネルを操作して。


『はい、高町です。』


次の瞬間にはよく知った声が聞こえた。表記は「SOUND ONLY」で、声の主はさっきまで会っていた人物で、私を悩ませている(というか私が勝手に悩んでいるだけ)相手だった。


「あ、なのはさんお忙しい所すいません。」
『大丈夫だよ~。もうこの後は全然お仕事残ってないから。それよりどうしたの?』


珍しいね、なんて。ちょっとだけ楽しそうな会話。どうして急になのはに連絡を?なんて思いながらティアナに謝罪しながら床に散らばった書類を拾う。ティアナは「本当に顔色悪いですよ?」なんて言うけれど、流石になのはに好きな人が居るって聞いたから、なんて口が裂けてもそんな情けない事は言えないわけで。


「なのはさん、フェイトさんの事迎えに来て頂けますか?」
『え?…フェイトちゃん、どうかしたの?』


次の瞬間、2人のそんな会話が聞こえてきて思わず顔を上げた。


「ちょっと調子悪いみたいなので…。言っても聞かない人ですから、出来たら無理矢理連れて帰ってでも休んで貰いたいんですよね。」
『んー、分かった。すぐそっちに向かうね。』

「えっ、だ…大丈夫だよ?シャーリーも、ティアナも、なのはも!私本当に大丈夫だから──…」

「なのはさん、宜しくお願いします。」


ピッ、なんて。通信は私を無視して進められた上に私を無視して終了された。


「しゃ、シャーリー?何でなのはに…」
「だってフェイトさん、なのはさんの言う事しか聞かないでしょう?」
「そ、そんな事は──…」
「どう見ても顔色悪いですし今日は早めに帰ってください。どうせ大した仕事もないですから。私とティアナですぐに終わりますよ。この量なら。」


シャーリーがそう言ってティアナの方を見ると、ティアナも「その通り」と言わんばかりに首を縦に振る。


「え、…で、でも…」
「良いから。フェイトさんは今日1日ゆっくり休んでください。なのはさんもすぐ来ますし。」
「大丈夫ですよ、このくらいの仕事私たちに任せてください。」
「い、いや…全然、本当にもう大丈夫だから……」


なんて。そんな情けないやり取りを不毛に続けている私の部屋になのはがやってくるのは数分後の事。








高町教導官には好きな相手が居るらしい。
他の誰も目に留まらないほどらしい。






私を迎えに来て、心配して怒っているような、だけど何処か上機嫌そうななのはを目の前にしながら、私の頭にはそんな言葉がずっと流れていて。気になりすぎて思わず口に出してしまったのは、それから家に帰って少し経った後の事。
















つ づ く  (その内更新。多分。)




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なのフェイ信者ですw
初心者ですが宜しくお願いしますorz
あと、一応リンクフリーです(^^);

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