黒白6

黒白更新しま

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初めてスカリエッティと話をしたのは、浄化の門へ向かう途中だった。


「何処に行くんだい?」


いろんなことに絶望して、色んな事を諦めて、だけど最後に乞い願った私は精根尽き果て、疲れていて。そんな中、話しかけられた。一人で浄化の門へ向かう途中で。


「──誰?」


普段はあまり見かけない黒い羽。見事に黒く、美しいとさえ思った。


「僕は元天使の悪魔…もとい堕天使だよ。」
「元…天使。」
「そ。素行が悪くって浄化されるところだったんだけどさ。」


逃げちゃったんだよね、僕は。そう言って薄らと笑みを浮かべる。弧を描いた唇が怪しくて、ほんの少しだけ眉を寄せた私に、彼は続けた。


「それで、何処に行くんだい?」


もう一度同じ質問。知っていて聞いていると分かるその質問に、私は小さく口を開く。


「罪を償う為に、浄化の門を…くぐる所。」


罪。本当にそう思っているわけじゃない。けど、私がこうすることで良いのだと、これが正しいのだと、その時はそう思っていた。


「フェイト・T・ハラオウン。武装天使部隊の元隊長である君が。」


どうして上官を切りつけたりしたのかな、なんて。薄らと笑うその悪魔は、何とも言えない上機嫌な声音で囁いた。どうして私の名前を知っているのかなんてどうでも良かった。


「貴方には関係ない。」
「関係ないけど、もっと面白い事をしようとは思わないかい?」


ねぇ、フェイト。なんて。馴れ馴れしく名を呼ぶ彼のさ様はまさに悪魔。さしずめ悪魔の囁きといったところだろう。そんな悪魔の囁きに、私は耳を傾けてしまった。


「彼女にもう一度、会いたくはないかい?」
「なん──…」
「君が彼を切りつけたことで、君と彼女の罪は有耶無耶になったけれど。」


どうしてそのことを知っている?と目で問うても彼は答える気はないらしく、饒舌に話を続ける。黒い羽を広げて、上機嫌に。


「この先、君が滅されたら彼女は君の後を追いかねない。」
「…なのははそんな事しない。」
「だとしても、天使の中の誰かが彼女の罪を告発するかもしれない。」


一拍置いて。


「君と愛し合ってしまった罪を、告発されるかもしれないじゃないか。」
「……ッ」


それが私となのはの罪。なのはも知らない、私たちの罪。少し前に上官であったゲイル中将に、言い渡された罪。なのはに言う前に私にだけ教えてくれた彼は心底申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にした。ずっと庇ってくれていたらしい彼の言葉。そんなこと知らなかった私は、何も言えなかった。

愛し合ってしまったことが「罪」だなんて。二人とも刑は免れないと、心底申し訳なさそうに言うゲイル中将の顔を、私は今も覚えている。


「何が…悪いの?」


目の前の悪魔に小さく呻く。愛して何が悪いのか、私には分からない。惹かれたことが罪だなんて認めたくない。だけど刑を避けられないというのなら。


「しかし君も大それたことをするよね。」


その悪魔は自分の黒い羽を愛おしそうに撫でて続けた。


「二人分の罪を掻き消すほどの大罪を犯すなんて。」


天使の傷つけあいはご法度。でもそれは、百も承知だった。それでよかったとも思う。だって、私がそうすることで、私となのはの「その罪」は有耶無耶になったから。私が居なくなればなのはには何の非もなくなる。彼女は優秀な天使だから、天使の長達も目を瞑るはず。


「他にどうすることも出来なかったからね…。レジアスさんには謝ったし、これで良いんだ。」


彼には一つだけ約束を取り付けて、謝罪をした。どうしようもなく悲しそうな顔をした元上官。なのはに万が一非が向くというなら、きっと彼が何とかしてくれる。そう信じたから、私は浄化される罪を受け入れられた。


「ねぇフェイト。」
「…なに?」
「悪魔において、傷つけあいは罪にはならない。」
「……?」
「悪魔における出世とは、上官を殺して這い上がる事だ。」


恍惚とした表情でそういう悪魔は私の反応を待たずに。


「君はこちら側に来るべきだと、そう思うよ。フェイト。」
「どうして…?」
「出世したまえ。フェイト。」


初めて薄ら笑いを消して、その悪魔は強く囁いた。おどけた口調でなく命令口調。威圧的な言葉。


「悪魔になってってこと?」
「そう。」
「何故?」


じわじわと、甘い言葉が耳を貫く。悪魔になって出世すれば彼女にもう一度触れることができるのかと。出世すれば、この馬鹿げた仕組みを壊せるのかと。欲が沸いた。この時には多分、もう私は天使じゃなかったんだと思う。


「僕はね、勿体ないと思うんだよね。」


悪魔が近づいてきて、冷たい手が頬に触れた。


「つまらない自己犠牲で、満足するんじゃないよ。フェイト。」
「………。」


迷いが生まれて、すぐになのはの顔が浮かんだ。もう一度会いたいと欲が生まれて、止まらなくなった。彼女にもう一度逢えるなら、どんなことも厭わない。彼女にもう一度触れられるなら、許されるなら。


「僕は綺麗なものが好きでね。もっというと面白いものが好きだ。」


だから、と続けて。


「君がこのまま死んでしまうのはとても残念だと思っただけ。」
「それなら──…」


ぐっ、と唇を噛む。一度諦めたそれを、もう一度掴めると言われたなら。


「力を、貸して欲しい。」


堕天しても良い。もう一度、彼女に触れられるなら。彼女に触れることが罪とならない世界でもう一度。そう、願ってしまった。「力を貸して」と縋った言葉に微笑を浮かべた悪魔は私へと手を差し伸べる。そうしてその手を取った私に。


「僕はスカリエッティ。君を悪魔の世界へ歓迎するよ。」


怪しく笑って、スカリエッティはそう名乗った。それが私と彼の出会いで、堕天を決めた馴れ初めの事。







───だけど悪魔になって、私はやっぱり彼女にはもう触れられないのだと知ることになった。


























「──…ッ」


背中に走る激痛とに悶えながら、遠い昔の事を反芻しながら。スカリエッティの服の裾をつかんだ私に、長刀を握ったままのスカリエッティが困った顔をした。


「そんなに嫌なのかい?フェイト。」


声にならない言葉を飲み込んで、スカリエッティに視線だけ向けるとスカリエッティはやれやれと気が逸れた様子で肩を落とす。

相も変わらず人質になったままのなのはと、もう片方の羽が残っている状況で、私は意識を保っている事さえやっとだった。我ながら情けなく思う。売り言葉を買っている場合でなく、冷静に対処すべきだったと。


「……まぁいい。言っておくけど、貸しひとつだよ。フェイト。」
「…?」


ギリギリの意識の向こう側。隙もなく、躊躇いもなく。


「ッ──…」


私の刀を捨てて、銀色の装飾のついた銃を何処からともなく出して、躊躇なく引き金を引いたスカリエッティの姿だけが見えた。


銃の所持が許されているのは、天使でも悪魔でも最高ランクの権力者のみだったと記憶している。けど、今はそれどころじゃなくて。

同時にどさりと地面に何かが落ちる音がして顔を向ける。


どうやら天使の方には傷一つつかなかったらしい事を確認して、私は情けなくも意識を手放したのだった。
















テーマ : 魔法少女リリカルなのはStrikerS
ジャンル : アニメ・コミック

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なのフェイ信者ですw
初心者ですが宜しくお願いしますorz
あと、一応リンクフリーです(^^);

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