黒白7

黒白。

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「色々と、すいませんでした。」
「怪我がなくて良かった。」


試しに実施された天使を導入しての任務も何とか終わり、深々とスカリエッティさんに頭を下げる私に、彼は笑みを浮かべたままだった。隊長の代理としてあいさつを交わすスカリエッティさんは、最終的にフェイトちゃんのもう片方の羽を切り落とすことはなく、銃を使って犯罪者を射殺。そうして私を助けてくれたのだけど。


「あの……」


だけどあの時、肝心なことを教えてくれはしなかった。


「何かな?」
「あの時言ってた、フェイトちゃんの自己犠牲って、何ですか?」


だから、真っ直ぐ問う。けど、一瞬考えるような仕草をして。


「僕も教えてあげたいけれど。残念。これを言ったらフェイトに怒られそうだ。」


これ以上嫌われたくないんだよね、なんて薄ら笑いを浮かべて、次いで耳元に顔を寄せる。


「どうしても知りたいなら、直接フェイトに聞きなよ。」
「えっ…」


そう言って、何とも言い難い視線を私へと向ける。耳元に唇を寄せたまま、彼は部屋の番号を言った。それはこの階下にある奥の部屋の番号。


「そこがフェイトの部屋だ。」
「どうして…」
「フェイトをね、堕天するようにそそのかしたのは僕だ。君を餌にして。」


机に身体を預けて、腰かけるような姿勢で少しだけ困った顔で。スカリエッティさんは続ける。口を挟むこともなく、続きを待つ私に。


「君にもう一度会いたいなら堕天しろってね。」


くすっと笑って、私を見る。スカリエッティさんは「さしずめ悪魔の囁きってとこだ」なんて言って、それから緩慢な動きで体を動かして私の真正面に立った。真っ直ぐ私を見る怪しい視線。怖いとは思わないけれど何を考えているのかが分からなくて、怖いというよりは不安を掻き立てる視線だった。


「それは──…」


彼女がまだ、私を想っていてくれているってこと?そう聞こうとして、どうしてか、言葉には出来なかった。じわりと心に欲が沸く。


「おっと。時間かな。」
「……え?」
「すまないけれどフェイトが休んでいる間の仕事をやってあげなくちゃならないのでね。」


ちょっとだけ胸を張ってそう言うスカリエッティさんは得意げな顔で私を見る。そういえばこの人はどうしてこんなにも彼女に優しいのだろうか。元天使で同じ境遇だから?それ以上に何かがあるような気がした。けれどそれ以上聞けなくて、言葉を飲み込んで促された彼女の部屋に足を進める。


「あの…本当にフェイトちゃんの部屋に、入っても大丈夫なんでしょうか?」
「誰かに何か言われたら、僕の許可があるって言うといい。」
「……はぁ。」


本当につかみどころのないというか。不思議な人だと思う。良い人なのかと思えば、平気で人を撃つような冷たいところもある。それは彼女にも、言える事なのだけど。平気で刀を振り下ろした彼女はとても冷たくて、だけどとても悲しそうな瞳をしていた。


「じゃ、ごゆっくり。」
「えっ」


そうこうして考えている間に、促されて連れてこられた部屋の扉の前で置き去りにされた。少し上質な扉の造り。何となく、昔気軽に入っていた彼女の部屋を思い出したけど、だけどそれとは全然雰囲気も何もかもが違くて。なんとなく、「違う」んだなって苦笑して。それから誰も見ていないのに辺りを見渡して、恐る恐る扉の取っ手に手を掛けた。

少しだけ冷たくて重い扉を開くと、中には少し上質のソファーが置いてあって、あとはなんていうか、簡素な造りの部屋。ソファー前のテーブルには書類が数枚投げるようにおいてあって、ソファーには服が雑に脱ぎ散らかされていて。


その奥で。


「……っ」


ベッドの上。白いシーツの中に体を沈めて、背中を上にしてうつぶせに眠る彼女の姿があった。顔なんて見なくたって分かる。シーツの上を流れる金色の綺麗な髪に、それから。痛々しい羽を落とした後の背中。残った黒い片羽。


「ふぇいと、ちゃん…」


小声で呼んでも彼女は身動き一つしない。昔から寝起きが悪かった彼女のそういうところはどうやら変わってないらしくて、思い出したとたんに愛しさが溢れた。多分、そう。触れたくて仕方なくなって、泣きそうになる。白くて長い腕を見ても、その腕に抱かれていた過去の自分が羨ましくなったり、昔を思い出してたまらなく切なくなる。いっそ彼女をおって、こちら側にくるのも良いかもしれない、なんて。考えるのはそんな馬鹿なこと。もう私の事なんて何とも思っていないかもしれないのに。スカリエッティさんの話を聞いて、勝手に期待して、変な欲が沸いた。

いとも簡単に、悪魔に騙される天使の図って言うのはきっとこういうものなんだろう。少しだけスカリエッティさんを恨めしくも思う。


「……ん…」
「っ」


けど、彼女の寝息を聞いて。或は、身動きした彼女の寝顔を見て、それも真っ白に吹き飛ぶ。少しだけ苦しそうに小さく声を発したフェイトちゃんは眉を寄せて、辛そうで。だから。ほんの少しだけ、彼女の傷口に魔力を注ぎ込む。天使本来の力は回復だとか、そういうもの。スカリエッティさんも彼女にその力を当てていたけど、純粋な天使の私がやった方が、その効果は強い。


「…どうして」


そうして彼女の傷を癒すうちに小さく言葉がこぼれた。どうして私に何も言わずに堕天してしまったのか。今聞いたってフェイトちゃんは眠っているし、聞こえるはずがないのに。それからそっと、残っている片羽に触れた。昔と同じように、優しく。何となく起こしちゃいけないような気がして、でも起きて欲しくて。


初めて触れる彼女の黒い羽は、昔と変わらず柔らかくて、暖かかった。


「ん、……」
「…。」


それから羽に触れたからか、もう一度身じろぎしたフェイトちゃんが小さく口を開く。寝ぼけてるような、そんな口調で。


「誰……、ギン…ガ?」


彼女の唇が紡いだのは知らない人の名前。途端に、体中の体温が下がったような錯覚を起こす。薄らと開いた紅い瞳に私を映して、それからすぐに、彼女の意識が眠りの世界からようやく覚醒した。


「な、のは?」


なんでここに?なんて。驚いたような声。


「ご、ごめんなさい。…スカリエッティさんが、通してくれたから。」


久方ぶりの彼女と二人きりの空間。なのに、すぐにでも逃げ出したくなった。だってフェイトちゃんが読んだ名前が、私の知らない人だったから。……私じゃ、なかったから。


「スカリエッティがここに…?」
「怪我の様子…心配だっただけだから。──…もう行くね。」
「っ……」


動けるなら良かった、なんて声になるかならないかの小さい囁きはきっと彼女には聞こえなかったと思う。けど、そんな私に向かって何か言おうとしていたフェイトちゃんを振り切って、私は逃げ出すようにその部屋を出た。折角話をする機会があったのに、できなかった。ずっと、フェイトちゃんの唇が紡いだ誰かの名前が気になって。







「どうやった…?」


それから逃げるようにやって来たのはスカリエッティさんに話を聞く間、はやてちゃんたちに待って貰っていた部屋。逃げたきた私の顔を見て、はやてちゃんが少しだけ眉を寄せた。「何かあったん?」なんて瞳で問うようなはやてちゃんに苦笑して、「違うの」と首を振る。


「フェイトちゃん、寝てたみたいだったから。」


あの様子ならすぐに羽も復活すると思う。なんて、隣ではやてちゃんとティアナと話をしていたフェイトちゃんについていた、多分彼女の部下にも聞こえるようにそう笑う。だから心配しなくても大丈夫、なんて言うとやっぱり部下にも慕われているんだろう、その部下の子もほっとした息を吐いた。


「あの、さ…」
「あ、はい?」


だから。なんとなく。


「ギンガって言う子…知ってる?」


聞いてみたくなった。本当は聞くつもり満々で、「フェイトちゃんは大丈夫」とその部下の子に聞こえるように言ったのは、聞きたいことがあったから。彼女の身を案じている彼女の部下にその話を教えてあげれば、きっと私の欲しい情報も教えてくれると、そう思ったから。自分でも、卑しくて浅ましいと思うけど。


「あぁ、ギンガさんならフェイト様の補佐的な仕事をやっている方の事ですよ。」


ちくりと、胸がうずく。


「フェイト様の身の回りのお仕事をしていたり、僕たち下級悪魔にもお優しい方です。今回の任務にもいらっしゃいましたよ。」


ちょっと苦笑して、そう教えてくれたその子は。


「噂だと、良くフェイト様のお部屋に通っているそうです。」
「は?…それってどういうことなん?」


間に口を挟んだのは私じゃなくて、はやてちゃんだった。


「え?あ、深い意味はないんですが、僕たち悪魔は快楽を貪るという行為は許されているので…。」


あ、でも噂ですよ?なんて悪気なく。ちょっとだけ初心に顔を赤くして、その悪魔の子は「実は僕も一度、フェイト様の部屋にギンガさんが入っていくのを見たことがあります」なんて言った。

それがどういう意味かなんて、誰にでも分かる。


「……そ、そっか。」


想像することさえ出来なくて、したくなくて。だけど何とか笑顔を繕って。


「そろそろ戻ろっか。」


辛うじて、私はその言葉を口にした。これ以上ここに居たら、どうにかなりそうで怖くて。こんなにも激しく嫉妬という感情を抱く自分が、とても汚く思えた。こんな自分はもう天使じゃないんじゃないか、なんて。嫉妬でどうにかなりそうな自分をなんとか支えるようにして部屋を出ようとして。


「…ここに居たの。」


扉の前で、少しだけ息を切らして、青白い顔をしたフェイトちゃんと鉢合わせした。黒いシャツ上着を肩に羽織って。ベッドを出たままの恰好で。真っ直ぐに紅い瞳を私へと向けてそこに立つフェイトちゃんは小さく息を吐いて、それから口を開いた。


「帰ろうとしたところ悪いんだけど。」


そう言ってみているのは私じゃなくてはやてちゃんとか、ティアナの顔。


「ちょっと借りていくよ。」
「えっ」


掴んだのは私の腕で。そのままフェイトちゃんに引っ張られて、私は訳が分からないまま、泣いて消えてしまいたくなりそうな気持ちのまま、その部屋を後にした。













テーマ : 魔法少女リリカルなのはStrikerS
ジャンル : アニメ・コミック

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なのフェイ信者ですw
初心者ですが宜しくお願いしますorz
あと、一応リンクフリーです(^^);

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