千一夜物語 中

追記から。

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はやてが連れてきたその子は、何ていうかとても不思議な、それでいて実に面白い子だった。今までに無いタイプで私の興味を引いた、と言ったらそうなのだろう。退屈しないというか。





「……君がはやての友達の…?」
「高町なのはです。」


初めての反応だった。媚びない態度。はやてが連れてきた花嫁候補のその子は、はやて曰く貴族でも何でも無い町の女の子。

どうしてはやてがそんな子と友達なのかはさて置き、後で聞くとして。なんというか、物珍しい気持ちだった。


「えと、何もしないから大丈夫だよ。」


部屋に入るなり、何故か私を警戒して近くに寄らないその子はどこか不機嫌…というよりは不安そうで、その不安を和らげようと小さく笑う。なのはと言ったその女の子はまっすぐ青い瞳で私を見て、それからどこか安堵の息を漏らして「そうですか」なんて言うわけで。


「君、もしかして無理やり連れてこられた?」
「えと…そんなに無理やりでは、無いですけど。」
「ごめんね。何だか変なことに巻き込んじゃって。はやても、私のためにしてくれたんだと思うんだけど。」


ごめんと頭を下げると、その青い瞳は何故か驚きに見開かれてそれから可笑しそうに笑みを漏らす。初めて見たその子の笑顔に、不覚にも胸が跳ねた気がした。


「まぁ、とりあえず座って。…立ちっぱなしは疲れるでしょ。」


王宮にある、花嫁候補のために取り揃えられた部屋。隅っこに立ったままのその子に座るように促すと、遠慮がちに椅子に腰掛ける。そんな彼女に。


「あー、えっと……」


いつもやって来る花嫁候補の子達はあれやこれやと話しかけてくるから、特に会話には困らなくて。まぁ、面倒に思っていたんだけど。でも、この子はそうじゃなくて特に私に何か話しかけてくるわけでなく、何故か私が会話に詰まる次第。何か話しかけなくちゃ、なんて思うのは初めての経験だ。

が、そんな風に狼狽えた私に、やっぱり彼女は可笑しそうに笑った。


「王子様でも、会話に困ってそんな顔したりするんですね。」
「そ、そういうのは関係無いよ。…私は初対面の人と話すのが得意なタイプじゃ無いんだ。」


王族のわりに。とつけたして、何だか言い訳のように言うとやっぱり彼女は笑う。それがなんだか嬉しかった。はやてに聞いた話、彼女は私より少しだけ年上のようだった。


「ふふっ…ごめんなさい。なんだか誤解してた。」
「え?」
「だって毎晩女の人を取っ替え引っ替えって言うから…」
「んなっ、誰がそんなこと…はやて?」
「違います、私が聞いたのはアリサちゃん。」


それは大臣の娘で、言うならばまぁ私の友人だ。アリサのことだからさも冗談でも言ったのだろう。アリサなら言いそうだ。それより驚いたのは彼女の交友関係。


「……君、アリサとも友達なの?」
「ちょっとだけ。…君じゃなくて、なのはって呼んでください。」
「あ、うん。…なら私も。それに、そんな話し方じゃなくていいよ。普通で。」


名前で呼んでほしい。なんて、そう言って気付いたのだけど、そんな風に思うのは初めてだった。そんな感覚がなんだか面白くて。


「なのはは、普段は何してるの?」
「私?えと…普段は親がやってるパン屋の手伝い…かなぁ。」
「へぇ…」


ちょっとはにかんで自分のことを話すなのはになんだか私も嬉しくなって、他にも聞きたくて、気がついたら話に夢中だった。最初はあんなに話に困ってたのに。

話していて分かったことは、なのはは私より1つ年上で、なんていうか色んなことを教えてくれた。町のこと、なのはのこと、それから国のこと。無論、国のことなら私だって知ってるけど、町の人たちから見た国のことはまた少し違くて。とても面白い。


「フェイトちゃんは、どうしてその、お嫁さん選びに迷ってるの?」


少しして。唐突になのはがそんな風に聞いた。ちょっとだけ遠慮がちに。きっとはやてに何か聞いたんだろう。私のことを少し心配してくれているような、そんな素振り。


「……迷うっていうか。」


そもそも私にそんな気は無いということ。集められる花嫁候補たちは貴族や大臣の娘とか、そういうのが多くて。前にも言った通り、私自身を見てくれているわけでは無い。身分と容姿に、媚びる態度。それは仕方ないのかもしれないけれど、私はそれが嫌だった。だから、その気も無いのに何度も沢山の花嫁候補と夜を過ごすだけ。


「次の日も会いたいと思うような人には出逢えなかった。…それだけ。」
「…なんだか大変だね。あ、そうだ。フェイトちゃんもたまには町に出てみたら?」
「えっ?」
「王宮に居てばっかりじゃストレス溜まりそうだもん。…あ、もしいつか町に遊びに来たらその時は案内してあげる。」


良いこと思いついた、なんて。なのははそんな空想をして楽しそうに笑った。今まで会ったどの子よりも楽しそうで、屈託なく笑う。


「じゃあ、いつか遊びに行こうかな。なのはのところに。」
「いいよ、はやてちゃんとかよく来るし。」
「はやてってば、私に内緒で…」


知らなかった。なんて言うと「実はアリサちゃんもね」なんて。みんな結構町に遊びに行ってるんだなぁ、知らなかった。

それから色んな話をして、不意になのはが小さく欠伸をした。気が付けばもう夜更け。




「眠ってもいいよ。」
「え、でも。」
「別に何もしないから。花嫁候補をたくさん呼んでも、触れたこと無いよ。誰にも。」


そう言って、備え付けられたソファーに身を倒す。


「ベッド使って。私はこっちにいるから。」
「ぇえ?そ、そんなこと…いや、それなら私がそっちに行くよ。」


ダメだよ王子様がそんなところで、なんて。何故かこういう所はやてみたいだ。


「いや、だめ。私はこっち、なのははそっち。」


だけど、流石に女の子をソファーに寝せてベッドに寝る気にもならないし。(私も女だけど。)


「えぇ、他の人の時はどうしてたの?」
「窓辺に座ってたかな。…あとは途中で自分の部屋に戻ったり。」
「そ、そうなの。」
「うん。だから、この部屋で眠る気になったのは、もしかしたら初めてかも。」


なんだか自分で可笑しくなって笑ってしまった。そんな私に、なのははきょとんとして「だったら尚更こっちに」なんて言うのだけど、「おやすみ」と返して無視をすれば、なのはは少しだけ唇を尖らせて文句を一言二言。


「……。」


どう言って良いのか分からないけど、本当に初めてだった。また会いたいと思うのは。もっと他の話も聞きたくて、聞いて欲しくて。出来るなら明日も来てはくれないだろうかと。でも、嫌がられたら、嫌だな。

何だかうまく言えない感情がもやもやする。別に花嫁にとかそういうのでなくて、ただ話すだけで良い。なんて言ったら我儘だろうか。どうして私はこんなに1人でもやもやしているんだろう。


「……あの、さ。」


歯切れ悪く言うと、少しだけ眠そうな返事。王子である私に、そんな気怠げに返事をする人も初めてで、それすら面白い。多分、そういうところが良いんだろう。「なぁに?」と小さく返されたなのはの言葉に、意を決して。


「明日も…話せない、かな。」


あ、でも忙しければ良いんだ。なんて早口で誤魔化すように付け足す。こんな事を言うのは彼女が初めてで、何故か返事を聞くまでの間が異様に長く感じた。少しだけ考えて、それから小さく「いいよ」と言う声。その返事にホッとして、それだけでとても嬉しくて。この気持ちが楽しくて。

私はまた翌夜、なのはと会う約束をしたのだった。























「え?また会う約束したの?」
「うぇ、…うん。今晩。」


お店に来たアリサちゃんに、驚いたようにそう言われて、私は首を縦に振った。はやてちゃんに頼まれて王宮へ行って、フェイトちゃんと過ごして。なんて言うか想像と全然違くてとても驚いてしまった。

とても綺麗な人だった。私より1つ年下の、だけど少しだけ寂しそうな目をした王子様。何だか見た目より子供っぽくて、どこか可愛くて。本当は嫌だったのに話してるうちにそんな気持ちは全然なくなってしまった。


「アリサちゃんが変なこと言うからちょっと不安だったんだけど、想像と少しだけ違ったかな。」
「あんたあの冗談本気にしてたの…」


呆れた、なんて言うアリサちゃんを無視して。


「会うつもりなかったのになぁ…」


なんとなくつい、返事をしてしまった。どうしてかわからないけど。


「まぁ、別に道楽でやってるわけでもないし…あいつも悪い奴じゃないし暫く付き合ってやったら?」


友達いないのよ。なんて仮にも王子である彼女をそんな風に言うアリサちゃんに少しだけ苦笑して、「そうだね」なんて返した。

別に会うのが嫌なわけではない。ただ、これはずっと続くものではないし、なんていうか。

友達なんて言っても、あの人は王宮に住む王族で、私はただの一般人。なんとなく、私へと向けられる純粋なただの好意を疑ってしまう自分が嫌だった。


「あんた、フェイトに気に入られたらどうするの?」
「……それは、無いと思うんだけど。」


ぼんやり考える私にそう言ったのはアリサちゃんで、苦笑気味にそう返す私に「そんなの分かんないわよ」なんて。


「万が一そんなことがあっても、私は応えられない…かな。」


「無いと思うけど」なんて言いながら、私は小さく笑う。例えそんなことがあったとしても、私には応えられない。多分、信じられないというのが本音。

今までに会っていた貴族とちがう、ただの一般人である私の話を物珍しく思ってるだけじゃ無いかな、なんて、あるのはそんな疑いの気持ちで。そんな自分が、私は少しだけ嫌だった。

















つづ…く?

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なのフェイ信者ですw
初心者ですが宜しくお願いしますorz
あと、一応リンクフリーです(^^);

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