doubt 14

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「ん──…」


ほんの少し身体が軋む気がして、カーテンから差し込む日差しの眩しさに少しだけ身をよじる。次いで、コーヒーの香ばしい香りが鼻をついて、うっすらと目を開けた。

あぁ、そういえば昨日はこのままソファーで寝ちゃったんだっけ…なんて、再び微睡の中に戻ろうとして、はっとして思わず跳ね起きた。


「おはよう。」


クスッと笑う声に視線を向ければ、少し憎たらしい顔があって。


「なっ、…何して…」
「何って。コーヒーいれたんだけど。」


君も飲む?なんて。しれっとそんなことを言った。ここは私の家で、彼女が勝手にそんな事をするのは初めてで。まぁ、それは、良いんだけど。昨日私に嫌がらせをした事はもう無かったことになっているようで、彼女はもう気にしてないみたい。それはそれでどうかとも思うのだけど。かと言って掘り返す気にもならず、私も気にしないようにした。


「あ、うん。…じゃあ貰おう、かな……」


そう返事をして、それから淹れてもらった起き抜けのコーヒーはとても美味しかった。豆も何もかも私の家のもので、いつもつかっている物なのに、何故か味がいつもと違うような錯覚も覚える。けど素直に「美味しい」と言うのは癪に触るので、何も言わなかった。それから、コーヒーを飲みながら、捜査資料を片手に座る私を遠巻きに見る視線を感じた。


「………なに?」


なんとなく不機嫌に問うと、やっぱり人を嘲笑するような笑み。


「いや、随分素敵な格好だなと。」


クスッと笑って私を視線で指す。言われて、視線を落とした先、そのまま寝たせいか、シャツが乱雑に乱れて何ていうか。胸元が結構露出していたようで、思わず胸元のシャツを集めて閉じた。相変わらず彼女は私をからかうことが好きなのか、嫌がらせが好きなのか。そんな彼女に対して小さく息を吐く。

それからシャワーを浴びて仕事に行く準備をして。その詐欺師を連れて捜査局へと赴いたのだった。

ユーノ君から連絡が来たのは、捜査局へ着いたすぐ後のこと。「知らせたいことがある」という彼の言葉の通り、彼女を捜査室へと置いたまま、私は急いでユーノ君の元へと向かった。
























「知らせたいことって?」
「あぁ、突然ごめんよ。どうしてもすぐに知らせようと思って。」


ユーノ君の仕事場へとやってくると、徹夜明けなのか目の下に隈を作ったユーノ君が、よろけながら資料を開いた。ずり落ちた眼鏡を押し上げて、少し神妙な顔。


「……多少良くない手も使ったんだけど。」
「ふぇ?」
「実は彼女の経歴…に近いものかな?それを見つけたんだ。」


それは詐欺師、フェイト・T・Hの素性について。経歴も何もない謎に包まれた「彼女」についての情報だった。


「見つけて…良かったのか分からないんだけど。」
「うん。」
「かなり際どい所の情報だし、勿論出所も極秘だ。」
「うん。」
「正直これを暴いて良い事なのかも分からないよ。」
「…うん。」


何度かの前置きをして、複雑そうな顔をして。ユーノ君は静かに口を開く。どうやら余程の情報なのか、或いは彼女にとって知られたくない物だったのか。…ううん、きっと知られたくない過去に決まってる。それを暴くのは、少し気が引ける。けど、続きを聞かずにはいられなかった。


「……前に言った、アリシアという人物の事、覚えてるかい?」
「うん。戸籍上、故人の……存在しないって言う…」
「そう。そのアリシアという人物のデータを入手したんだ。……亡くなった歳は9歳だったそうだ。」


だから子供の頃の写真なんだけど、と言って差し出した一枚の写真。それを見た瞬間に、声を失った。

その写真の中、屈託なく笑うその女の子の髪は金髪。そして紅い瞳。何をどう考えても、それはまぎれもない「彼女」だった。


「こ、これ…っ!!」


顔を上げて目が合うとユーノ君は静かに頷く。


「アリシアについての情報は故人である事と当時9歳だったという事、それからこの写真だけしか出てこなかった。データを印刷した写真なんだけど。」
「そう、なんだ…。」
「それで、この子の情報なんだけど。何者かによってデータベースから消されていたみたい。だから存在したという履歴しかない。」
「そんな…の…」


そんな芸当が出来る人物なんて、限られている。否、彼女なら容易いかもしれない。憶測がいくつも浮かんだ。浮かんだ点が、線で繋がるようにそこから何かが導き出される。あくまでも、予想と想像なのだけど。


「もしかして…」


写真に写る屈託なく笑う女の子。どう見てもそれは彼女自身。


「うん。フェイトがアリシアである可能性は──…とても高いと、僕は思う。」


限りなく。目を閉じてそう言うユーノ君。私も、そうとしか思えない。だって、こんなにそっくりなのだから。


「何かあるとは思っていたけど、余程の事情があったんだろう、多分だけど、彼女は「アリシア」から「フェイト」になったんじゃないかな。」


勿論想像の範疇だけど、と付け足して。ユーノ君はそう言った。私もそう思う。だとしたら。彼女には一体どんな事情があったんだろう。屈託なく笑うこの写真の女の子は間違いなく年相応の可愛らしさ。今の彼女からは到底想像できない。ではこの数年間で一体何があったのか。


「……ありがとう。ユーノ君。」
「いや、でもこの情報…色々不可解な事があるんだ。」
「というと?」
「うん。これだけデータが完璧に抹消されているのに、この画像だけ、守りが甘かった。簡単に探し出せるようになっていたっていうのかな。」


ちょっと不思議じゃない?と言うユーノ君。私はその手の話には疎いからよくわからないけど。


「だからまぁ、僕はもう少しこの事、調べてみるつもり。」
「うん。ありがとう。」



そうして話を終えてユーノ君の部屋を出て、私は捜査室へと戻る。…と、捜査室では相変わらず偉そうな態度の彼女が居た。もちろん彼女だけでなく、アリサちゃんとはやてちゃん、それからすずかちゃんも。

皆それぞれに忙しそうにしていて、ちょっと部屋を留守にしたのが申し訳なくなる。それに、彼女に対しても。


「……なに?」
「な、何でもない。」


目が合って、なんとなく罪悪感で視線を背けた。あの写真の少女が彼女なのだとしたら。ほんの少し、胸が疼いた。どうしてか分からないけど。もしかしたらこれは「助けてあげたかった」という気持ちなのかもしれない。こんな彼女でも。…わからないけど。


「何か悩みでも?」


だけど、くすっと笑ってそう言う彼女は至って普通通り。小馬鹿にするような態度で「顔に出やすいね」と笑う。


「…それとも罪悪感?」
「えっ…」


突然そう言われてドキッとした。私が何をしてきたか見透かされたのかと思って。けど、どうやら違ったみたいだった。彼女は相変わらず偉そうに椅子に腰かけたまま、私の隣で続ける。


「目が泳いでる。落ち着きがない。衝動で軽犯罪を犯した人にちょっと似てた。……人の心理は体に如実に出やすい。」
「人を犯罪者にしないで。」


相変わらずクスクスと笑う彼女。


「なのはー、私ちょっと報告書出しに行くけど持っていくものある?」
「あ、じゃあこっちのもお願いしていい?」


不意に、アリサちゃんに声を掛けられて。私は提出する書類をお願いした。アリサちゃんと一緒に同行するようにすずかちゃんも席を立って。「そんなら私ちょっと野暮用」なんて、一緒にはやてちゃんが席を立つ。そうすることで、捜査室には急に人気がなくなって。残されたのは私と彼女だけになってしまった。



「……それで?」
「ふぇ?」
「何か言いたそうにしてなかった?」


流石としか言いようのない洞察力。…単純に私が態度に出しすぎだったのかもしれないけど。彼女は、書類に目を通しながら、事も無げに言った。


「別に、…そんな。」


きっと聞いてはいけないことなのだと思う。彼女にとっても私にとってもそれが一番いい。なのに、知りたいと思う。目の前のこの詐欺師の過去を。急に、そんな欲求が沸いた。ただの好奇心じゃない気持ち。


───なのに、聞くのが。知るのが怖い。


「あの」
「なに?」


一拍の間をおいて。彼女を見る。いつの間にか窓辺に移動した彼女の髪は陽光を反射して、美しかった。




「アリシアって……名前に、聞き覚え、ある?」




意を決して私が口にした質問に。ほんの少しだけ。



彼女が微かに笑ったような気がした。
それは、とてもとても冷たい笑みだった。
















テーマ : 魔法少女リリカルなのはStrikerS
ジャンル : アニメ・コミック

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なのフェイ信者ですw
初心者ですが宜しくお願いしますorz
あと、一応リンクフリーです(^^);

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