doubt 15

どっこいしょーい!
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聞かなければ良かったのかもしれない。意を決して口にした彼女へのその質問に、部屋の空気が静まって、心なしか少しだけ、部屋の温度までもが下がったような錯覚さえ覚えた。


「………」


アリシア、という名前を口にした私に何も言わず、かといって聞かれたその質問にも何も答えず笑みだけを浮かべた彼女。何も言わずに少しだけ考えるように宙を仰ぎ、それから窓辺に寄りかかった。やはり聞かなかった方が良かったのかも知れない。彼女のプライベートな過去に触れてしまった後悔があって、だけどそれが気になる自分も居て、綯い交ぜになって少し複雑な気分だった。


「……参ったね。」


暫し無言の後で、口を開いたのは彼女で。どうすることも出来ず、質問の撤回すら出来ず、立ち竦んで彼女の方を向く私に向けられたのは鋭い瞳。だけどすぐに、彼女は纏う空気を変えて、私に向けるその表情を笑顔に変えた。そんな態度がいつも、どれが本当の彼女の感情なのか分からなくさせる。もともと分かりやすくなんてないんだけど。


「なにが…?」
「いや。侮ったなぁと。」


そう思ってね、なんて言いながら、彼女は私の横を素通りして、背後の給水器でインスタントのコーヒーを淹れた。なにを侮ったのかは分からないし、本当に彼女の感情はいつも読み取れなくて難しい。それは詐欺師ゆえなのか分からないけど。ただ、今は。飄々とした態度の裏に、ピリピリとした空気を感じた。怒ってる、とは少し違う空気。緊張感なのかもしれない、なんてなんとなくそう思った。


「まぁ、良いけどね。君たちが何を調べてるのかは分かっていたし。」
「……。」
「まぁ、素直に賞賛しても良いかな。…よく調べたね、と。」


向けられたのは綺麗な微笑。だけど、冷たい笑み。相変わらず上から目線で偉そうな態度なのに、その裏にほんの少し彼女の本当の気持ちが見えそうで見えなくて、何となく歯痒い気がした。そして彼女の口からは独り言のような賛辞の言葉が続けられた。


「でも」


それから一拍置いて、コーヒーに口を付けて、彼女は外へと視線を向ける。何を見ているのか、視線の先はいつも分からないけど、何処か物憂げな顔で笑って質問の答えを告げる。


「それで、君が待っているその質問の答えを言うなら、その名前に心当たりはないよ。」
「嘘!だって──…」


明らかな嘘。あの写真は確かに彼女だった。それに「よく調べたね」と、その名を知っていると態度に出した上でのその回答。間違いなく彼女の答えは嘘なのに、私はその先の言葉を口に出来なくて。そんな私に彼女は息を吐く。それから、私が言葉にできなかった、その質問の内容の続きを理解した上で、言葉を続けた。


「……私の名前はフェイト。」


君も知ってるはずだけど?と続けて、「だから君が思うように、私はアリシアではない」と笑う。有無を言わせない回答を前に、私はそれ以上何も言えなかった。彼女は十中八九、間違いなくアリシア本人だろう、そう思うのに。それ以上の質問も言葉も寄せ付けないそんな彼女の言葉に、私は口を閉ざす。

何か理由があって今はフェイトと名乗ってるんじゃないかって。それが私とユーノ君の見解。きっとこれ以上私が何を聞いても、彼女は何も答えないんだろうなと、肩を落とした。


「ほかに何か聞きたいの?」
「……。」
「じゃあこの話はこれで終わりだね。」


それから彼女は微笑みを浮かべたまま、この話は終わりと明言してそのまま椅子に腰かけた。何も言わず立ち竦む私に何も言わず、視線すら向けず。その態度に、やっぱりと小さく確信する。間違いなく彼女は「アリシア」だったはず。脳裏に浮かぶのは、屈託なく笑う女の子の顔。きっと彼女もまた、何かの被害者なんじゃないかと、どうしてか胸が痛んだ。彼女のことを思って胸が痛んだりする自分に少しだけ驚いたりもしたけれど。


「……ところで、ジェイルの捜査って進んでるの?」
「な、なに?急に…」
「ん、なんだかあんまり進行してるような気がしないから。」


捜査の書類を投げ出して、何を読んでいるのかと思ったら、彼女は子供が読むような漫画の本を読んでいた。


「そう言うんだったら協力してよ。もっと。」
「随分貢献したと思うけど?」
「…まだ捕まえられてないじゃない。大体、彼は生物兵器とかウイルスとか、そういう危険なもの使うんだからもっとちゃんと本気出してよ。」


これ以上被害が出る前に、と深くため息をついてそう言う私に、彼女は意地の悪い笑みを浮かべて「欲張りだね」なんて言った。


「良いけど、ジェイルを捕まえたら、ちゃんと分かってる?」
「…分かってる。」


忘れるはずがない。約束と報酬。ジェイル・スカリエッティを捕まることを条件に、自分の身体を。小さく隠れて手を握った。そんな小さな仕草を、やっぱり彼女は見逃さなくて。小さく笑って、それから「ねぇ」と呟く。


「自分の身体はもっと大切にしたほうがいいんじゃない?」
「え?」
「ジェイルの逮捕なんて誰かに任せておけば良いじゃない。」


私以外の人が聞いたなら、それは多分甘い誘惑だったのかもしれない。いつもより声が優しかったとか、それが詐欺師の手口なんだろうけど。相手が私じゃなかったら、ちょっとは揺らいじゃいそうな優しい声の囁き。


「生憎、私は自分の意思で彼を捕まえたいの。他人任せなんて、そんな事出来ない。」


真っ直ぐに彼女を見て、揺るぎない意志を伝えると彼女は少しだけ肩を落としたような気がした。


「そう。まぁ、前から思ってたけど君も随分頑固だよね。」
「なっ…」
「まぁ、良いよ。ジェイルを捕まえるのは楽しそうだし、報酬も楽しみだし。」


そろそろ本気出そうかな、なんて言って机に頬杖をつく。と、同時に報告書を提出しに行っていた皆が部屋に戻ってきた。書類を持って行ったから手は空で帰ってくるかと思いきや、もって言った以上の書類の山を抱えて。


「ただいま。…これ、捜査資料に借りてきたわ。」
「おかえり、ってこれ全部?」
「せや。まだ目を通してないやつとか、ほかの事件にも何か関わりがあるかも知れんし。」
「アリサちゃんがあれもこれもって言うからこんなにいっぱいになっちゃった。」
「う、うわ…でも、ありがとう。」


元々散らかっていた机が、その書類を置いたことでさらに散らかった。


「皆やる気満々だね。」


その背後で、まるで他人事のように「わぁ」なんて感嘆の声をわざとらしく上げて、彼女は「お疲れさま」とやや小馬鹿にした労いの言葉を贈った。ここで、いつもならアリサちゃんが食って掛かるところなんだけど、今回にはそうはならなくて。


「あんたもやるのよ。…正直、あてにはしたくないけど。」
「へぇ、急にどうしたの?いつもみたく怒らないの?」
「……認めたくないけど、あんたの情報のおかげで事件の捜査が進んだわ。だから…」


憎々しげに、だけどそれ以上に、別の感情がその言葉には含まれていた。と思う。すずかちゃんは嬉しそうに頷いていたしはやてちゃんは…ニヤニヤしてたけど。言われた本人の彼女ですら、少しだけ意外そうな顔をしていた。けどそのすぐ後に「これがツンデレってやつ?」なんて事を言ってアリサちゃんが書類を投げつけるという騒ぎがあったのだけど。ほんの少し、彼女と私たちの関係が前進した、といっても良いのかもしれないって、そう思った。





「……アリサちゃん、急にどうしたの?」


少し後にこっそりはやてちゃんに聞いてみて。


「あぁ、なのはちゃんは気を失ってたし、知らんやろうけど…」
「ふぇ?」
「なのはちゃんが銃で撃たれたときあったやろ?あの時フェイトちゃんが応急処置とか、色々してくれてな。」
「そう、なんだ…。」


そんな理由を知った。


「医学の知識もあるみたいでなぁ、まぁ…そんなに大した怪我やなくて良かったけど。」


そう言って私のお腹辺りを見て。はやてちゃんは「多分その辺が理由やない?」なんて微笑む。それは知らなかった。彼女の事だから「応急処置のお礼」なんて言ってきそうなものだけど。でもそれを言うならそもそもは彼女が狙われてたせいで…


「あれ?っていうかあの事件ってどうなったの?!」
「うん?どれのことやろ?」
「彼女が撃たれそうになって…あの時の犯人って捕まったの?そもそも犯人に心当たりあるの?」


急に振り向いて話しかけたら彼女は驚いた顔でこっちを見ていた。そういえば私が庇ったあの銃は、もとはと言えば彼女を狙ったものだった。けど、どうやら犯人はその後捕まえられたみたい。


「恨みを買うようなことならたくさんしてるしね。」


その犯人の話をした後で、どこかの政治家とかに雇われたんじゃない?なんて笑った彼女に呆れたのは私だけじゃないはず。なのに彼女は自分の命が狙われているということにあまり関心がないようだった。


「そんな雇われスナイパーなんかより、ジェイルの捜査のほうが大切なんじゃないの?彼は生物学とかに長けてるし、本気で生物兵器なんて作り出されたらスナイパーなんかよりもやばいかもよ?」


くすっと笑って、彼女は話の矛先を変える。持ってきた書類はいつの間にか彼女の目の前のデスクに大量に積んであって、「目ぼしい情報なし」なんて続けた。


「本当に読んでるわけ?…あんた。」
「勿論。なんなら暗記した文面でも読み上げようか?」


全部覚えてるよ、なんて挑発するように笑う彼女に、アリサちゃんが聞こえるように舌打ちをした。


「あーもう、良いわよ。ムカつくけど本当にあんた頭良いのね。」
「それほどでもないよ。」


くすくす笑っていう謙遜の言葉が余計にアリサちゃんを挑発していて、ちょっとハラハラしながら見守る私をよそに、はやてちゃんとすずかちゃんは何だか和やかそうに見守っている。


「はぁー。それほど頭もよければ世の中何でも思い通りなんでしょうね。ムカつくわぁ。」


詐欺やってても今まで欲しくて手に入らなかったものなんて何もないんでしょ、なんて皮肉たっぷりに続けられたアリサちゃんの言葉。けど、どうしてかその瞬間、彼女は少しだけ笑った。さっきまでとは違う表情で、雰囲気で。ほんの一瞬だったから、気づいたのは私だけかもしれないけど。


「どうかな。大体はなんでも思い通りだけど。」


そう言って、コーヒーを一口飲んで。


「でも、そうだな…一つだけ、どうしても手に入らなかったものがあったかな。」
「フェイトちゃんにもそういう物あったの?」
「酷いなぁ、すずか。…私だってそういう物くらいあったよ?最も、それは子供の頃の話だけどね。」
「じゃあ今なら簡単に手に入るんじゃない?」


すずかちゃんの次に、棘のある言葉でそう言ったのはアリサちゃん。


「どうかな。…まぁ、何が欲しかったのかももう忘れちゃったんだけどね。」


そう言っていつも通り憎たらしい顔で笑う。


「それにしてもフェイトちゃんにも子供の頃があったんやね。」
「みんな私をなんだと思ってるのかな…?」


可笑しそうに笑ってそう言う彼女の表情はいつも通りなのに。

どうしてか。
どうしてか酷く気になった。


彼女の欲しかったものが何なのか。それはただの作り話だったのかもしれないし、私たちの信頼を得るためのコミュニケーションとか適当な話だったのかもしれないんだけど。あの紅い瞳の裏に隠された感情が酷く気になった。初めて自分の話をした彼女の事、「欲しかったもの」の話をした時に一瞬見せた、寂しそうな瞳の色がとても気になっていた。


彼女の事をもっと知りたいと思ったのは、きっと多分そのせいで。さっきから胸が疼くような、そんな疼痛を感じるようになったことに、まだ気が付かなかった。



















カウントダウンの始まりだぜ(ノ)°ω°(ヾ)!



テーマ : 魔法少女リリカルなのはStrikerS
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初心者ですが宜しくお願いしますorz
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