doubt 19

追記から( ◔ д ◔ )


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暗くてほんの少しカビ臭くて、鼻をつくアルコールや薬品の匂い。懐かしくて、昔を思い出して吐き気がした。


「来たよ。ジェイル。」
「……ようこそ。いや、おかえりと言うべきかな?フェイト。」


薄ら笑いを浮かべた白衣の男がそう言った。久々に見るジェイル・スカリエッティは相も変わらず痩せ細った身体を揺らして、その身に、その瞳に狂気を宿していた。


「どうしてあのデータを、捜査局の奴に出したの?やったのジェイルでしょう?」


何気なく、小さく言うとジェイルはとぼけるつもりも無いらしく、どこか可笑しそうに笑う。


「写真のことかい?……君の。」
「あれは私じゃ無い。」


否定の言葉を即座に吐くと、またジェイルが笑った。


「君が捜査官に現を抜かすといけないと思ってね。」
「……私が裏切ると?」
「君は優しい子だからね。」


ククク、と喉を鳴らして可笑しそうに不気味に笑うジェイルに息を吐く。何が言いたいのか、薄ら笑いを浮かべたまま、ジェイルは椅子に座って足を組んだ。どうやらいつもそばについているクアットロは今は居ないらしい。けど、二人きりだからといって危険なんて無い。ましてや何か事を起こすつもりもない。まだ。


「何を勘違いしてるか知らないけど、そんな気は毛頭無いよ。」
「そうかな?」
「……何故?」


何が言いたいのか、その意図を図れず眉を寄せる。そんな私に、ジェイルはとても満足そうに嬉しそうにしていた。


「あのデータを出してからというもの。案の定、君はすぐにこちらにやって来た。」
「どういう意味…?」
「君は巻き込みたくなかったんじゃ無いかな?彼らを。…自分の過去を知られたくなかったんじゃないかな?フェイト。」
「………そんな事ないよ。」


巻き込むとか巻き込まないとか、言ってる意味がわからない。


「もともとそういう計画だったはずだよ。…私が出頭すれば賢い捜査官がきっと私の情報を、知識を必要としてやって来ると。言い出したのは貴方だ。」


私はそれに手を貸した。ジェイルを追っている捜査官をあぶり出すために。あぶり出しておいて今更、彼女らの身を心配する道理がない。


「あぁ、そうだ。……だが、君は賢い。」
「…。」
「アリシア。君は───」
「私はアリシアじゃない。」
「フェイト。そろそろ遊びも終わりにしよう。」


小さく笑って。ジェイルは続けた。


「君が仲良しになった捜査官の彼女らを、呼び出してくれないかな?…今後、少々邪魔になって来そうだ。」
「……いいよ、何処に?」


薄暗いその部屋で。私の計画が動き出した。



























「これが例の写真?」
「フェイトちゃんの小さい頃の写真かな。」
「偉い可愛い子やね。」


アリシアのデータをユーノ君から受け取って。それから皆に見せたそれぞれの反応はそんなものだった。この少女の写真を見て、彼女の幼少期だと誰もがそう思う。それ程彼女に似ているというか、彼女そのもの。それが何故、故人とされているのか。それ以上にアリシアについての情報が全くなさ過ぎる。


「どう考えてもこのデータが急にユーノ君の元に出てきたのはおかしいと思うの。それはユーノ君も言っていたんだけど…。」


名前等の情報以外皆無。一切が謎とされているその情報が、どうして突然ぽろりと出てきたのか。


「なのはは、誰かが故意にこの情報を出してきたって思ってるわけね?」
「……恐らくは。」


名前を言わなくても伝わった。ジェイル・スカリエッティという存在。多分、彼がこちらにアクセスしてきたのではないかと思う。…確証はないけれど。


「もっと情報が欲しいわね…。」
「ほんならスカリエッティが昔医者だったっていう筋から当たるんはどうやろ?」
「私もそう思う。フェイトちゃんの教えてくれた僅かな情報でも追う価値はあると思うんだ。」


はやてちゃんの言葉に賛同して、すずかちゃんがそう呟く。なんだかんだで、彼女はやっぱり有力なヒントを少しずつ散りばめていった。チクリと痛む胸を押さえて頷く。


「そうだね…ひとまず、そっちから当たろうか。」
「それよりも先に。」
「ふぇ?」


お腹すいたなぁ、なんて。言ったのははやてちゃんだった。こんな時になに言ってるの?とアリサちゃんが言うかと思ったら、アリサちゃんまで「そうね」なんて。


「なのは、ちょっと休憩しましょ。」
「えっ?」


なんで?なんて言いかけて、額にデコピンされた。地味に痛むそれ。


「な、なにするの…」
「お昼買ってきて。」
「ふぇ?」
「私前の通りのハンバーガー屋さんがいいな。」
「ほんなら私も。」
「えぇ?」


あれよあれよという間に。どういう訳か私がみんなのお昼を買いに行く事に決められてしまった。…いつもは局内の購買で適当なものを買ってるのに。


「…分かったよ。」


ともあれ、本当は皆が私に気をつけてってくれたのは分かってる。外の空気でも吸ってこいとか、大方そんなところだと思う。わかりにくいけど、分かりやすい。


「なに買ってきても文句言わないでね?」


少し根を詰めすぎだったかも知れない。彼女が居なくなってから、なおさら。言われるがままに、財布と携帯を持って、上着に袖を通して捜査室を出た。そのまま局を出て、道を歩く。皆が言っていたお店は少し歩いた交差点の先だった。


「全く…皆して。」


道を足早に歩いて、すれ違う人々に目を向ける。そういえばここ数日は捜査の事しか頭になかった。道行く人々は、家族だったり恋人同士だったり、友達だったり色々だった。…そんな中に、どうしてか彼女を思い出す。あの憎らしい顔を思い出した。彼女にどうやら恋をしていると自覚してからは、半ば諦めというか。随分すっきりした気持ちになった。これが本当に恋なのかは正直まだよく分からない。ただ、彼女と話をしたら。彼女にまた会ったら、この気持ちが何なのかきっとわかる気がした。だから、その為にもジェイル・スカリエッティを捕まえる。

それは、それだけは変わらない。どんな手を使っても彼を捕まえる。彼のせいで大勢の人が苦しんでいるなら、私はそれを止めたい。今一度信念を立てて、ぎゅっと手を握った。人が多い交差点。ちょうど信号が赤に変わり、私は考えることを一旦やめて、足も止めた。車通りが多くて街はいつも通り賑やかで。そんな時、ポケットに入れておいた携帯が震えた。

お昼の追加注文かな?なんて携帯を取り出せば、表示名は「非通知」。なんとなく、トクンと胸が跳ねた。ほんの少し緊張して、受話器のボタンを押して、耳に当てる。


「…もしもし?」


多分何かの間違い電話とか、勧誘とか大方そんなところだろうとそう思ってまっその返事は。


『久しぶり。』


元気だった?なんて悪戯めいたそんな声。悪びれもなく、陽気な声で、彼女は私に電話をかけてきた。天才詐欺師、フェイト・T・H。私が取り逃がした、第一級犯罪者である彼女。


「な……っ、…近くに、いるの?」


色んな感情がない交ぜになって、たけど色んな言葉を飲み込んで、ようやく口にした言葉はそんな言葉。信号待ちの人々に囲まれて、立ち止まったここでは変な話は出来ない。イライラと、だけどなんとも言えない気持ちが確かにあって、私は息を吐いた。悔しかった。声を聞いただけで、嬉しいと思う馬鹿な自分が。捜査官としてあるまじき自分が。


『前。…見てごらん。』
「え…?」


交差点、横断歩道の先。すぐに目に付いた。黒い上質な上着と一目でわかるそれに袖を通した堂々たる立ち姿。久々に見る彼女は相変わらずの笑みを浮かべて、私と道路を挟んだすぐ近くの距離なのに、きっと捕まらない自信があるんだろう、そんな余裕が伺えた。


『……もっと怒ってるかと思った。』


受話器越しに、クスッとした笑い声が響く。


「怒ってるとか怒ってないとかじゃ、無いでしょ。」
『そう?随分理性的だね…』
「貴女こそ、逃げた癖にどうしてまた戻ってきたの?」
『うん。君の顔が見たくなってね、なのは。』
「つまらない嘘吐かないで。」


じわりと胸が疼いた。絶対に嘘だと分かるそんな言葉でもほんの少しだけ胸が熱くなるような馬鹿になってしまったのかと唇を噛む。頭と心は、思った以上に別物だった。


『…嘘では無いけど……そうだね、信号が変わる前に話をしよう。』


紅い瞳がこちらを見て言った。


『ジェイルを追うの、やめない?』
「……何故?」
『悪いけど、ジェイルを渡すわけにはいかないんだ。…君に。だから、諦めてよ。』


信号が変わるのが待ち遠しくて、心が急く。通って行く車の合間に彼女の姿を確認して、無言で続きを促した。


『あまり自分から危険に身を突っ込むものでは無いよ。』
「……危険でもなんでも、私は彼を捕まえる。」


それから、貴女も。絶対に揺るがない気持ちを言葉にして、まっすぐに彼女を見ると、彼女は少しだけ困ったように微笑んで「やっぱりね」と言った。


『そう。じゃあ、これで最後にしよう。』


間も無く信号が青に変わる。交差点の先、彼女の姿はまだそこにあった。


『なのは。……罠だと思ったら来なくていい。』
「え?」
『明後日の夜、…今から言う場所で待ってる。あぁ、でも…あんまり大人数では来ないで欲しいな。』


最後の最後に言った台詞はそんな事。言い逃げするように、彼女はそう言うと、その指定の場所を告げて、私に背を向けた。


「待って!」


信号が変わった瞬間に、一斉に人々が歩き出す。さっきまでこの目にしっかり捉えていた彼女の姿は、ここにきて急に消えてしまった。人の波に紛れるように掻き消えた彼女の姿。手にしている携帯はすでに通話を終えて待機画面を表示していて。まるで彼女が幻だったように思えた。

けど、着信履歴に刻まれたその非通知の文字が、彼女にあったのは幻なんかじゃないと、そう教えてくれた。




『明後日の夜、待ってる───』





罠じゃないはずが無い。
なのに、私の心は決まっていた。















テーマ : 魔法少女リリカルなのはStrikerS
ジャンル : アニメ・コミック

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なのフェイ信者ですw
初心者ですが宜しくお願いしますorz
あと、一応リンクフリーです(^^);

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