このあいだの

つづき。
なんか魂の半分あげちゃったやつの。

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身体に染み付いたむせ返るような血の匂いと、硝煙の匂い。喉が焼けつくような、気持ちの悪さ。


───戦は好きじゃない。

つい先ほど戦から帰還して、やっぱりそんな風に思った。











「フェイトちゃん、怪我したの?」
「……すぐに治るから。」


帰還して早々に私の部屋にやってきて、それから私の体を見てそんな風に聞かれて。大したことないから内緒にしてと苦笑すると、質問をした当のすずかは眉根を寄せた。

数年前、大切な人の命と引き換えに差し出した、目に見えない私の魂の半分。それがなくなって、良くは分からないけど。私は所謂、悪魔の眷属と言うものになったらしい。あまり実感がなかったけれど、怪我をすると、それが如実に表れて、実感せざるを得なくなった。つまり、前よりも、普通よりも、随分傷の治りが早くなった。人外の回復力。

正直言えば気味が悪いけれど、戦乱の中では便利で、有り難かった。


「フェイトちゃん、本当にこのままで良いの?」
「…何が?」


すずかの言葉に耳を傾けながら、薄暗い部屋の中、上着を脱ぐ。


「なのはちゃんに──…」
「何も言わなくていいよ。なのははもう関係ない。」


すずかの言いたいことが分かって、敢えて遮る。以前なのはの側近だった私は、兵に志願して今では功績を称えられて、数年という短期間で将軍にまでなった。私の他にも彼女の側近は何人か居た。目の前のすずかはその一人だ。


「でも。」
「すずかの言いたいことは良くわかるよ。…でも、私今日は疲れてるから、その話は今度ゆっくりしよう。」


ごめん、と小さく謝罪して笑うとすずかはまだ何か言いたそうにして、それから最終的に言葉を飲み込んだ。


「悪いけど、戦の功績に目がくらんだ愚かな将軍って事にしておいてよ。」
「それ、フェイトちゃんの事?そんなこと、誰が言ったの?」
「さぁ…誰だったかな。忘れちゃった。」


昔なのはに言われた皮肉。ずっと大切にしてきたその人に。嫌われようが罵られようが構わない。その人が、なのはが生きているのなら。


「もうあんな思い、したくないんだ。なのはには安全なところにいて欲しい。」


だから何も言わない。それにこんな身体では、近くに居られない。そう言って笑うとすずかはそれ以上何も言わなくて。代わりに、話題を変えるように怪我の手当てをしようなんて言って、「少し待ってて」と薬品を取りに部屋を出て言った。





誰も居なくなった薄暗い部屋で、一人。身体が鉛になったような疲れを感じて、深く息を吐く。こんな身体でも疲れは感じるらしい。傷が熱を持っていて、それのせいもあるのかもしれないけれど。それともあるいは──



「浮かない顔じゃないか。」


思いに耽りそうになったその時、誰も居ないはずの部屋の中で、そんな声が響く。びくりと身体が反応して、顔を上げれば、そこには見覚えのある男が居た。いつか出会った、悪魔と呼べるその存在が。


「何故、ここに…?」
「いやいや、特別用事は無いんだが。」


ゆらりと動く黒い影。数年前、なのはの命を救うために契約した悪魔が、佇む。今度は何の用かと問えど、どうやら用事は無いらしい。入り口から入った気配はなかった。けど、人外の存在である彼には入り口などあってもなくても関係ないみたいだった。


「元気にしているかな? フェイト。」
「───お陰様で。」


人間とは言い難いこの身体のお陰で私は戦で負ける事なく生きている。そう答えるとその悪魔は満足そうな、薄い笑みを浮かべた。


「それは良かった。…実はね、今日は君に提案をしにきたんだ。」


用事がないなどど言いながら。その悪魔は壁にもたれかかったままで、どこか少し馴れ馴れしく言葉を続けた。なぜか少しだけ嬉しそうに。


「君のおかげで私は随分と位を上げることができた。君が戦で敵の騎士を沢山葬ってくれたお陰でね。」
「………。」
「だから君にお礼をしようと思ってね。提案しに来たんだよ。」


そう言ってちらりと私を見て、続ける。


「フェイト、君の魂を半分返してあげようか」
「…え?」


そう言って、その悪魔はこの上なく楽しそうに笑った。


「君が望むなら、私は君に、昔君から貰った魂の半分を返してあげる事ができる。そうすれば君はきっとまたあの子のそばに行けるのだろう?」


なのはと距離を置いたのは、勿論戦に出るせいでもあるけれど、こんな身体になった所為と言うのが大きいと思う。しかし元に戻ったからと言って、また彼女のそばに戻りたいなんてそんな事を願うつもりもなかった。なのに、それでもほんの少し、心が騒ぐ。彼女の、なのはの声を思い出して、温もりを思い出して、それを望んでしまう。一度手放したはずの、忘れたはずのそれを目の前に下げられて。


「……フェイト。君が望むなら、いつでも。」


魂の半分を返して。君は唯の人に戻れる。


「…………。」


勿論、それならば、そう望みたい。なのに、気が付いてしまった。その悪魔の思惑に。そして思い出してしまった。


「さぁ、望むといい。」


その言葉に急かされて、喉が渇く。唯の人に戻るということは、また無力だった自分に戻るという事だ。なのはを守れなかった自分に。

あの日の感覚を鮮明に思い出して、冷たい汗が滲んだ。


「ずっと見て居たけど、この国は随分と恵まれた土地だ。緑に、水に。他の国が欲しくなるほどの。」
「………。」
「常に侵略に脅かされる弱い国。しかし近年は君の功績により随分と守りが固いようだ。」


じわりじわりと周りを埋められるようなその悪魔の言葉に息が苦しくなっていく。


「どうする? フェイト。」
「………」


どうすると問われても、身動き出来るはずがない。力が無ければ、守りたいものは守れない。この先この国が攻められ続けるのは避けられない。ならば。


「ならいっその事、国が攻められる前に他の国を全て焼き払うなんてどうかな? 君になら出来るんじゃないかな?」


そうすれば攻めてくる国はなくなるだろ?なんて、私の考えを見透かすような物言いに怖気がした。そんな事を望んでいるわけじゃない。出来るはずもない。一瞬でもそんなことを考えてしまった自分に嫌気がした。


「…戦争は好きじゃない。ただ、守るために戦っているだけで。」


向かってくるから仕方なく戦う。それだけのはずで。だから。


「だから、相手を殺すんだろう?」
「……」
「相手にもきっと君と同様、大切な人でも居たかもしれない。」
「……」
「あぁ、それとも君が殺した相手を故郷で待つ人がいるかもしれない。」
「…」


ちらりと私の顔を見て、悪魔が囁く。


「君は…いや、人間は実に面白い。」


薄く笑みを浮かべたまま。


「フェイト、もう一度だけ言おう。…君が望むなら、私は君の魂の半分を返そう。」


よく考えるといい。そう言ってとても愉快そうに笑って、その悪魔はゆらりと揺れて、影と同化して闇に消えた。


「………。」


彼が消えたその部屋はとても静かで。酷く乱れた私の呼吸の音だけが響いていた。椅子に座ったまま肘をつき、目を、顔を、手で覆う。

こうなることは自分で望んだ事だ。なのはを助けたかった。事実なのはは今も生きている。なら、それで良いじゃないかと思うのに、目を閉じると戦で向き合った敵兵の声が、恨み言が聞こえるような気がして。

出来るなら、悪魔が言うように元に戻して貰えればいい。出来るなら、戦になんて行かず、前のように彼女のそばで。出来るなら──。

だけどきっと、それは出来ないんだろう。

力の無い弱い私はこの力を手放せない。卑怯で弱い私だから、きっと。それを見透かして、わざと悪魔はこんな話をしたに違いない。


「………っ、…」


望んだとしても出来るはずがない一瞬の希望をちらつかせて絶望を与える。本当に悪魔だと思った。


酷く動悸がして、頭痛がして。
抜け出せない闇に身体が沈んでいく気がした。

































「あれ? すずかちゃん、どうしたの?」
「なのはちゃん…」


もう結構遅い時間。なんとなく眠れなくて、こっそり部屋を抜け出して歩いていた所で、私はすずかちゃんとばったり出くわした。浮かない顔をしたすずかちゃんは手に荷物を持っていて、見れば待っていたのは救急箱で。


「…どうしたの?」


首を傾げると、すずかちゃんは少しだけ苦笑して。


「ちょっとね。怪我した人が居て。」


手当もしないで放っておくものだから、と続けた。なんとなく、雰囲気で分かってしまう。


「………フェイトちゃん?」
「…ん。」


ちょっと戦で怪我したみたい。なんて少しだけ言いにくそうに続けた。何故か彼女が怪我をしたという事に、まともな手当ても受けて居ない事に苛立つ。


「なのはちゃんも、一緒に行く?」
「…なんで、私が。」


ぎゅ、と小さく手を握る。気が付けば彼女の部屋はもうすぐそこで。


「…なのはちゃん、お見合いするんでしょ?」
「まだ、決まってないけど。」
「そっか。」


なんとなく無言で。私も、途中で戻ればよかったのに、のこのこすずかちゃんについて来てしまった。彼女の部屋の前まで。


「あっ」
「え?」
「ごめん、ちょっと包帯忘れてきちゃった!」
「えぇ?」


わざとなのか本気でなのか。表情から察するに多分本気の方だと思うんだけど。


「あぁ、なのはちゃん悪いんだけどここで待ってて」
「えぇ?…なん、あっ…すずかちゃ」


返事をする前に踵を返したすずかちゃん。…救急箱を床に置いて行ったから、私がここでこの場を去ったら救急箱が落ちているような状態になるわけで。


「……はぁ。」


出来れば顔も見たくないんだけど。救急箱だけ届けて帰ろう。仕方ないから。肩を落としてため息をついて。そっと彼女の部屋の扉を開けた。


「……あの」


すずかちゃんに頼まれて救急箱届けに来ただけだから。ドアを開けて、そう言い訳みたいな事を言おうとして、言葉を止めた。そっとドアを開けたからかも知れない。寝てるのとは違う。

椅子に座ったまま、膝に肘をつき、顔を覆うようにして下を向く彼女が居た。表情は見えないけど、空気が悲痛めいていて、泣いているような気さえした。


「あの」


胸が搔きむしられたような気持ちになる。蓋をした気持ちが暴れるようなざわつき。彼女のそんな姿に駆け寄りそうになって、駆け寄れなくて。気になって、騒つく。





何があったの? と。



聞かない、声を掛けられない自分がもどかしくて。言葉にならない呼気が唇から漏れた。




















( ◔ д ◔ )つづかな…


フェイトさんの苦悩となのはさんの焦燥
そして悪魔に憑かれた(気に入られた)フェイトさんの絶望と希望を与えるなのはさんと続きが書けない私。


テーマ : 魔法少女リリカルなのはStrikerS
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初心者ですが宜しくお願いしますorz
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