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授業が始まってもう随分経つ。
さっきの休み時間に血相を変えて教室を飛び出していったはやてちゃんの事を気に掛けながら、私は静かに机に頬杖をついた。それにしても、朝会ったあの男の人は誰なのだろうともうすぐ終わると思われる授業内容をそっちのけで思い耽る。どうしてか、一瞬だけ思い出したあの光景は何だったのか。思い出したいような、思い出したくないような。
そんな風に思案している間に本日最後の授業の終了を告げる鐘が鳴って、一斉に教室内がざわつきはじめた。結局授業の内容なんて全く頭に入らなくて、私は相変わらず今朝の事をぼんやり考えたまま、そんな中、教室へと戻って来たはやてちゃんに目がいった。そういえば授業に出なかったはやてちゃんの為にノートを取っておいてあげればよかったな、なんて今更ながらに思いながら。
「はやてちゃん、何処行ってたの?」
戻って来たはやてちゃんに近寄ってそう話しかけるけど、はやてちゃんは少しだけ顔が青い。どうしたんだろう?なんて思ったのはすずかちゃんも同じだったみたいで「フェイトちゃんと何かあった?」なんて。
「え?はやてちゃんフェイトちゃんと居たの?」
そんなすずかちゃんの言葉に、私はそう口にする。すずかちゃんって結構なんでもお見通しなところがあるから凄いなって思ったり。そんな事は置いておいて、はやてちゃんの顔を見るとはやてちゃんはほんの少しだけ青い顔をしたまま苦笑して「何でもないよ」とだけ言った。
どう考えても「何でもない」って事はないと思うんだけど…。今朝の事といい今といい、なんだか様子が変。
「あー、本当なんでもないんよ?」
ちょっとお腹下しただけやよ、なんていつもの冗談のようにそう言ってはやてちゃんは笑うだけ。「ほんなら帰ろ」なんて言いながら私とすずかちゃんの横を通り抜けて自分の席にある鞄を手にする。
「変なはやてちゃん。」
結局はやてちゃんが何処に行ってたのかとか、教えてくれないままそれぞれの鞄を持って、私たちは学校を後にしたのでした。
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「なのは、今日は元気ないね。」
「──ふぇ?そ、そんな事ないよ?」
その帰り道で、横から少しだけ心配そうにのぞき込むフェイトちゃんに慌てて私は首を振る。いつもは彼女の方が背が高いから、こんな角度からフェイトちゃんの顔を見るのはちょっとだけ新鮮で、睫毛が長いなぁ、なんて変な事を想いながら。
「そう?……なら、いいんだけど。」
何かあった?なんてちょっとだけ優しく、ほんの少しだけ困ったような顔でこちらを見るフェイトちゃん。唐突に正面から見つめられて、不意に昨夜の事を思い出して、思わず恥ずかしさに顔を逸らす。そんな私に、彼女は少しだけ可笑しそうに笑った気がした。
「ふぇ、」
「うん?」
「フェイトちゃん、今日はやてちゃんと何してたの?」
「…え?」
今日の授業中、はやてちゃんと授業サボってたでしょ、なんて。自分の事を誤魔化しながらそんな風に言う私に、不意にフェイトちゃんの笑顔が少しだけ真顔になって、それからちょっとだけ困ったように笑う。
「ちょっとね。」
ちらりと前方を歩くはやてちゃん達を見て。
「喧嘩とかじゃないから、なのはは気にしなくて良いよ?」
私達にはよくあることだから。なんて笑って、フェイトちゃんはにこりと笑う。そんな笑った顔がとても綺麗で、だけど少しだけ物悲しい気がして胸の中が少しだけぎゅっとした。夕日を浴びた綺麗な横顔。長い睫毛。それに。深くて、だけどとても澄んだ綺麗な紅い瞳。時折感じる彼女の優しさだとかそう言うのを含めて。もしかしたら、私は彼女の事が好きなのかも知れない、なんて胸が高鳴った。もともと学校内で有名ではあったし、ある種憧れのようなものもあったけど。だけど心のもっと奥深い所で、気持が騒ぐ。
「私が一方的に想っていただけだよ。」
だからなのかな?どうしてか、彼女のそんな言葉が妙に胸に残るのは。前世での話。記憶がないし、なんとも言えないんだけど。私が前世の私だったら。(こんな言い方は変かも知れないけど)「私」だったら絶対に彼女にきっと恋をしたと思う。
生まれ変わると性格とかも変わるものなのかな?あぁ、でもお姫様だったから身分とかあったのかな?なんて一人で考えていて。不意に視界に影が差した。影になっているのはフェイトちゃん。
「──ふぇいと、ちゃん?」
「喧嘩じゃないんだけどね。」
「…え?」
彼女は「そろそろ潮時かな」なんて言ってにこりと微笑んだ。
「フェイトちゃん?」
どうかしたの?と言うのと同時に、急に発生した引力にカクン、と体が後ろに引っ張られて、目の前を綺麗な閃光が走る。真っ直ぐに、真横に一の字のように引かれたそれに、次いで首筋に、氷でも触れたような冷たさを感じた。冷やりとしたその感触に一瞬何が起きたのか分からなくて視線を巡らせる。
どうやら首筋に触れたのは刃だった。金色の、綺麗な。
「………なに、してんのよ。」
そう言ったのはアリサちゃん。
私とフェイトちゃんの間に立つように、私を彼女から守るように立つ3人。そんな3人の背中を見ながら首筋に触れる。急に引っ張られたのは皆が魔法を遣ったからだと理解した。それからじわじわと蝕むような痛みに触れて、ほんの少し首筋から血が出ている事に気が付いて。
「え…っと?」
いまいち何が起きてるのか分からなくて、皆の様子を伺う。今しがた起きたことが良く理解できなくて、だけどじわじわ痛むその傷が、何が起きたのかを教えてくれるわけで。
私は今、フェイトちゃんに殺されそうになった?なんて。そんなわけあるはずがないのに。
「フェイトちゃん、なんでなん…?」
だけど。はやてちゃんもアリサちゃんも、すずかちゃんも。思った事は同じみたいで、フェイトちゃんに身を構えて私を少しだけ遠ざける。フェイトちゃんはそんな私たちの様子を見て、小さく困ったように笑った。
「…皆、随分反応が早いね。」
ちょっとだけ低い声。いつもの温かさを孕む彼女の声じゃなくて、何処か冷え冷えとした声でそう言って、フェイトちゃんは手元の剣を持ち替えて。剣の端に残る、私の血を指で撫でた。
「なのはちゃん、怪我は大丈夫?」
「う、うん…」
少しだけ後ろへ下がって、すずかちゃんが私に触れる。その指がほんの少しだけ震えている気がした。もしかしたら震えてたのは私だったのかもしれないけれど。
「何、トチ狂ってんのよ。寝ぼけてんの?」
「正常だよ。アリサ。」
小さく息を吐いて、困ったような顔をして。そう答えたフェイトちゃんはちらりと私を見る。
「フェイトちゃん、何でこんなこと…。」
それから杖を構えたまま、少しだけ振るえた声で言うはやてちゃんに。フェイトちゃんは少しだけ苦笑して口を開いた。
辺りの空気は妙に静まって、静かに風だけが音を立てる。
「さぁ。」
「あんた、なのはの事好きなんじゃなかったの…?」
なんでだろうね。なんて続けて風に攫われる髪を抑えるフェイトちゃんに、今度口を開いたのはアリサちゃんで。怒っているような、だけど少しだけ泣きそうな声でしたそんな質問に。
「なのはの事は、…うん、そうだね。とても好きだよ?」
フェイトちゃんは微笑したままそんな風に答える。皆の目の前でそんなこと、なんて顔を赤くするような雰囲気ではなくて、どちらかっていうと「好き」といった言葉は酷く冷たい言葉で、少しだけ怖かった。
「じゃあ、なんで!!」
そう怒鳴るような声を上げたアリサちゃんとは対照的に。
「さぁ。何でだろう?……あぁ、なのはが私に応えてくれないからかな。」
そう言って私を見て。ちょっとだけ笑って、冷えた声。
「どれだけ想っていてもそれを許してくれなかった世界が憎いからかも。」
少しだけ弧を描くような唇。
それは、私が知らない彼女だった。そして、きっと他のみんなも知らない彼女。
───ねぇ、フェイトちゃん。
知っていれば、もっときっと、違う結果があったの?
Continue...
授業が始まってもう随分経つ。
さっきの休み時間に血相を変えて教室を飛び出していったはやてちゃんの事を気に掛けながら、私は静かに机に頬杖をついた。それにしても、朝会ったあの男の人は誰なのだろうともうすぐ終わると思われる授業内容をそっちのけで思い耽る。どうしてか、一瞬だけ思い出したあの光景は何だったのか。思い出したいような、思い出したくないような。
そんな風に思案している間に本日最後の授業の終了を告げる鐘が鳴って、一斉に教室内がざわつきはじめた。結局授業の内容なんて全く頭に入らなくて、私は相変わらず今朝の事をぼんやり考えたまま、そんな中、教室へと戻って来たはやてちゃんに目がいった。そういえば授業に出なかったはやてちゃんの為にノートを取っておいてあげればよかったな、なんて今更ながらに思いながら。
「はやてちゃん、何処行ってたの?」
戻って来たはやてちゃんに近寄ってそう話しかけるけど、はやてちゃんは少しだけ顔が青い。どうしたんだろう?なんて思ったのはすずかちゃんも同じだったみたいで「フェイトちゃんと何かあった?」なんて。
「え?はやてちゃんフェイトちゃんと居たの?」
そんなすずかちゃんの言葉に、私はそう口にする。すずかちゃんって結構なんでもお見通しなところがあるから凄いなって思ったり。そんな事は置いておいて、はやてちゃんの顔を見るとはやてちゃんはほんの少しだけ青い顔をしたまま苦笑して「何でもないよ」とだけ言った。
どう考えても「何でもない」って事はないと思うんだけど…。今朝の事といい今といい、なんだか様子が変。
「あー、本当なんでもないんよ?」
ちょっとお腹下しただけやよ、なんていつもの冗談のようにそう言ってはやてちゃんは笑うだけ。「ほんなら帰ろ」なんて言いながら私とすずかちゃんの横を通り抜けて自分の席にある鞄を手にする。
「変なはやてちゃん。」
結局はやてちゃんが何処に行ってたのかとか、教えてくれないままそれぞれの鞄を持って、私たちは学校を後にしたのでした。
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「なのは、今日は元気ないね。」
「──ふぇ?そ、そんな事ないよ?」
その帰り道で、横から少しだけ心配そうにのぞき込むフェイトちゃんに慌てて私は首を振る。いつもは彼女の方が背が高いから、こんな角度からフェイトちゃんの顔を見るのはちょっとだけ新鮮で、睫毛が長いなぁ、なんて変な事を想いながら。
「そう?……なら、いいんだけど。」
何かあった?なんてちょっとだけ優しく、ほんの少しだけ困ったような顔でこちらを見るフェイトちゃん。唐突に正面から見つめられて、不意に昨夜の事を思い出して、思わず恥ずかしさに顔を逸らす。そんな私に、彼女は少しだけ可笑しそうに笑った気がした。
「ふぇ、」
「うん?」
「フェイトちゃん、今日はやてちゃんと何してたの?」
「…え?」
今日の授業中、はやてちゃんと授業サボってたでしょ、なんて。自分の事を誤魔化しながらそんな風に言う私に、不意にフェイトちゃんの笑顔が少しだけ真顔になって、それからちょっとだけ困ったように笑う。
「ちょっとね。」
ちらりと前方を歩くはやてちゃん達を見て。
「喧嘩とかじゃないから、なのはは気にしなくて良いよ?」
私達にはよくあることだから。なんて笑って、フェイトちゃんはにこりと笑う。そんな笑った顔がとても綺麗で、だけど少しだけ物悲しい気がして胸の中が少しだけぎゅっとした。夕日を浴びた綺麗な横顔。長い睫毛。それに。深くて、だけどとても澄んだ綺麗な紅い瞳。時折感じる彼女の優しさだとかそう言うのを含めて。もしかしたら、私は彼女の事が好きなのかも知れない、なんて胸が高鳴った。もともと学校内で有名ではあったし、ある種憧れのようなものもあったけど。だけど心のもっと奥深い所で、気持が騒ぐ。
「私が一方的に想っていただけだよ。」
だからなのかな?どうしてか、彼女のそんな言葉が妙に胸に残るのは。前世での話。記憶がないし、なんとも言えないんだけど。私が前世の私だったら。(こんな言い方は変かも知れないけど)「私」だったら絶対に彼女にきっと恋をしたと思う。
生まれ変わると性格とかも変わるものなのかな?あぁ、でもお姫様だったから身分とかあったのかな?なんて一人で考えていて。不意に視界に影が差した。影になっているのはフェイトちゃん。
「──ふぇいと、ちゃん?」
「喧嘩じゃないんだけどね。」
「…え?」
彼女は「そろそろ潮時かな」なんて言ってにこりと微笑んだ。
「フェイトちゃん?」
どうかしたの?と言うのと同時に、急に発生した引力にカクン、と体が後ろに引っ張られて、目の前を綺麗な閃光が走る。真っ直ぐに、真横に一の字のように引かれたそれに、次いで首筋に、氷でも触れたような冷たさを感じた。冷やりとしたその感触に一瞬何が起きたのか分からなくて視線を巡らせる。
どうやら首筋に触れたのは刃だった。金色の、綺麗な。
「………なに、してんのよ。」
そう言ったのはアリサちゃん。
私とフェイトちゃんの間に立つように、私を彼女から守るように立つ3人。そんな3人の背中を見ながら首筋に触れる。急に引っ張られたのは皆が魔法を遣ったからだと理解した。それからじわじわと蝕むような痛みに触れて、ほんの少し首筋から血が出ている事に気が付いて。
「え…っと?」
いまいち何が起きてるのか分からなくて、皆の様子を伺う。今しがた起きたことが良く理解できなくて、だけどじわじわ痛むその傷が、何が起きたのかを教えてくれるわけで。
私は今、フェイトちゃんに殺されそうになった?なんて。そんなわけあるはずがないのに。
「フェイトちゃん、なんでなん…?」
だけど。はやてちゃんもアリサちゃんも、すずかちゃんも。思った事は同じみたいで、フェイトちゃんに身を構えて私を少しだけ遠ざける。フェイトちゃんはそんな私たちの様子を見て、小さく困ったように笑った。
「…皆、随分反応が早いね。」
ちょっとだけ低い声。いつもの温かさを孕む彼女の声じゃなくて、何処か冷え冷えとした声でそう言って、フェイトちゃんは手元の剣を持ち替えて。剣の端に残る、私の血を指で撫でた。
「なのはちゃん、怪我は大丈夫?」
「う、うん…」
少しだけ後ろへ下がって、すずかちゃんが私に触れる。その指がほんの少しだけ震えている気がした。もしかしたら震えてたのは私だったのかもしれないけれど。
「何、トチ狂ってんのよ。寝ぼけてんの?」
「正常だよ。アリサ。」
小さく息を吐いて、困ったような顔をして。そう答えたフェイトちゃんはちらりと私を見る。
「フェイトちゃん、何でこんなこと…。」
それから杖を構えたまま、少しだけ振るえた声で言うはやてちゃんに。フェイトちゃんは少しだけ苦笑して口を開いた。
辺りの空気は妙に静まって、静かに風だけが音を立てる。
「さぁ。」
「あんた、なのはの事好きなんじゃなかったの…?」
なんでだろうね。なんて続けて風に攫われる髪を抑えるフェイトちゃんに、今度口を開いたのはアリサちゃんで。怒っているような、だけど少しだけ泣きそうな声でしたそんな質問に。
「なのはの事は、…うん、そうだね。とても好きだよ?」
フェイトちゃんは微笑したままそんな風に答える。皆の目の前でそんなこと、なんて顔を赤くするような雰囲気ではなくて、どちらかっていうと「好き」といった言葉は酷く冷たい言葉で、少しだけ怖かった。
「じゃあ、なんで!!」
そう怒鳴るような声を上げたアリサちゃんとは対照的に。
「さぁ。何でだろう?……あぁ、なのはが私に応えてくれないからかな。」
そう言って私を見て。ちょっとだけ笑って、冷えた声。
「どれだけ想っていてもそれを許してくれなかった世界が憎いからかも。」
少しだけ弧を描くような唇。
それは、私が知らない彼女だった。そして、きっと他のみんなも知らない彼女。
───ねぇ、フェイトちゃん。
知っていれば、もっときっと、違う結果があったの?
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テーマ : 魔法少女リリカルなのはStrikerS
ジャンル : アニメ・コミック