missing25

missing25

web拍手 by FC2








「………ッ」


空気の冷たさが心地良かった。うっかりすると気を失ってしまいそうで、感覚の薄れた体を引きずって、全てを終わらせようと歩く。きっとこれが最後。相手であるあの男もきっと私と同じはず。あの男も私と同じ、1000年前の亡霊なのだと分かった。…一緒だから。








missing-25





薄暗い廃墟。



「……遅かったじゃないか。」
「随分と顔色が良いみたいだね。」


辿り着いた先、そこに居たのはジェイル・スカリエッティという、1000年ずっと憎んだその相手だった。彼は私を待っていたように笑う。片腕を失って、いよいよ血の気の引いた真っ青な顔。私と同様、この男にも時間がないのだと分かった。


「随分な皮肉を言ってくれるじゃないか。」
「……もう、終わりにしようジェイル・スカリエッティ。彼女の中に人を不死にする力はもう残ってない。」


分かってるんでしょう?と続けると、目の前の彼がうっすらと笑う。まだ腕が痛むのか、残った片手で傷口を抑えながら。


「不死…不死ねぇ、とんだ誤算だったよ。君がすでにそうだったなんて。」
「………。」


望んだわけじゃないその力。だけど、もう不死とは違う。だいぶ無理をした私にはもう終わりが見えている。それは彼にもわかっているようだった。


「全く。思ってた不死と違うじゃないか。……それは紛い物だ。ただの超回復。ただの長命だよ。」
「不死なんて、……そう良いものじゃないよ。」


ずっとずっと何年も。何百年も憎んできた男を目の前にして、沸いたのは殺意より、同情に近しい気持ちだった。もう弱りかけだからかもしれない。放っておいてもこの男は死ぬ。或いは消えてしまうだろう。時間跳躍できっと魔力を使い果たして身体のダメージも深刻なはず。……私には分かる。彼にも私のことが分かるように。


「君も私も、似た者同士…というわけだ。」


この男がいなければ、私は、私たちはこんな風になることはなかった。「不死」という力に囚われた彼と、「彼女」への想いに囚われた私。壊れかけ同士。


「………一緒にしてほしくないね。」


ここへは彼を殺す気で来たのに、彼を目の前にして、その気が失せて体の力が抜ける。もう彼が終わるのは時間の問題。現に、彼の身体は少しずつ乾いた砂のようにひびが入っていた。ともすれば、私もそうなるのだろう。指先の感覚が無くて、少しだけ笑えた。


「残念だよ。……全く、派手な展開を期待していたんだけどね。」


君と刃を交えるのはどうやら難しいらしい、と言った瞬間。彼に残された残りの腕一本が風化するように崩れ落ちた。静かに静観する私の目の前で。私から全て奪った男が終わる。こんなにも呆気なく。


きっと私も、もう間もなくこうなるだろう。


──願わくば、彼女には幸せを。
今度こそ、平穏で豊かな日常を。どうか。



約束が守れないことは、どうか許してほしい。生まれ変わってもそばにいてと最期に願った彼女のそばには、きっともう居られない。









「フェイト!!!!」


そう思って、力を抜いて、目を閉じた瞬間だった。呼ばれたその声にびくりと肩が跳ねる。怒気を孕んだ親友の声。騒々しい足音。よくこんな廃墟を見つけられたなと、少しだけ苦笑した。今いる場所は町はずれの廃墟。この男の隠れ家だ。思ったよりも早い到着に苦笑した。


振り向いた先、つい先ほど置いて来た皆が居て。早いね、と声にならない想いが漏れた。


「フェイトちゃん……」


3人に囲まれるようにして立つなのはに、少し苦笑を漏らす。本当の本当は、私は皆に来て欲しかったのかもしれない。最期にもう一度会いたかったのかもしれない。ひっそりと消えるつもりだったのに。


「…なのは。」


あの時のなのはも、そうだったの?最期に会えて良かったと笑った目の前の彼女のことを思い出す。最期に一目だけでも会えて良かったと、笑った最愛の人。


「フェイトちゃん、顔色悪いな…」
「そう?…ちょっと寝不足でね。」


心配そうに言うはやてに茶化すようなことを言って、笑って誤魔化す。皆が私に向ける顔が酷く心配そうで。困ったように笑った。


「……残念、時間切れだ。」


そんな背後。私の背後で、皆が私を通して見る先で静かにそう言う声がした。ジェイル・スカリエッティの最期の言葉。


「フェイト。……一足先に私はいくよ」


どうせ君もすぐに来ることになるだろうけどね。そう笑って、その瞬間、彼は崩れ落ちた。灰とも砂とも思しき物になって。風に吹かれるように。それが、最期だった。


「……あんたが、やったの?」
「違うよ。」


目は合わせないまま、アリサの問いに首を横に振る。


「腕を切り落としたのが、もしかしたら致命傷だったのかもしれないけれどね。」


なんて、そう言った私に。


「フェイトちゃん。」


真っ直ぐ声を向けるのは、なのはだった。ほんの少し震えた声。けれど、それには気付かないふりをした。気付かないふりをして「なに?」とごく自然に問う。

もう私にはあまり時間がない。


けれど思い残すことは何も無い。
これで彼女に穏やかな日々をあげられる。
彼女が姫という重圧に苦しむこともない。大きな力を狙われることもない。ただ、普通の女の子として平穏に暮らせる日々がある。


そこに私が居なくても、きっともう大丈夫。



「フェイト、ちゃん。」
「うん。」
「身体は…何ともない、の?」
「…全然何ともないよ?」


嘘を一つ。


「もう、大丈夫なの?」
「もちろん。」
「さっき、あの人が言ってた事は──」


どういう事なの?という声。


「それは──…」


質問が多いね、と笑って。これ以上誤魔化すことをやめた。多分、もう最期だから。


「……皆、気付いてるんじゃない?」


苦笑して、壁に体を預けて。手を開いて手のひらを見る。赤みがない、青白い手。石膏のような色の、「生」を感じない手。なにより感覚が無い。


「この身体は、もうそろそろ終わりを迎えるんだと思う。」
「ッ…何言ってんのよ」
「アリサだって気付いてたんじゃない?」
「アリサだけじゃなくて、皆も。」


はやてもすずかも聡くて鋭いんだから、気付かないはずかない。恐らく私も、彼のように砂とも灰ともわからない物になる。風化して消えてしまうだろう。それは何者にも止められない理。


抗えない。


なのに私は、4人を目の前にして、酷く落ち着いた気持ちでいられた。



それは、とても幸福に満ちた最期だと。

そう思えた。























「……皆、気付いてるんじゃない?」


そう言って、誤魔化すことをやめた彼女は、少しだけ困ったように笑うと、壁に体を預けた。生気のない顔色。よく見れば、もう本当に、立っているのもやっとそうで。そんな彼女の姿に、声が震えた。


「ふぇいと、ちゃん……」


嫌。この後、彼女がどうなってしまうのか。先ほどの彼の姿から、言った言葉から容易に想像が出来てしまうことが嫌。やっと、そばに居られるとそう思ったのに。


「なに、アンタ…そんな満足そうな顔してんのよ…」
「うん。」
「そ、そうやフェイトちゃん。やっと悪者も居なくなって、これから──…」
「うん。」
「フェイトちゃん……」
「皆、ありがとう。」


ずっと言いたかったんだ、とフェイトちゃんが笑う。


「アリサ。いつも叱ってくれて、ありがとう。ずっと救われてきた。はやても。ふざけた振りして、いつも助けてくれてありがと。…その鋭さには参ったけど。それから、すずかも。優しくしてくれて。本当に。」


小さく、フェイトちゃんが笑う。


「本当はもっと、言いたいことはあるんだよ。何せ1000年もため込んだ気持ちだからね。……でも、うーん、やっぱりみんなに言いたいことは「ありがとう」かな。それから、これから先も……なのはの事を──…」


よろしくね、なんてまるで最期の別れの言葉みたいな事を言うフェイトちゃんに。


「───ッ嫌!」


悲鳴にも似た声が、出た。彼女が居なくなってしまう。それがどうしたって嫌だった。自分は彼女を置いて逝った癖に。ひどいと思う。本当に我儘で、浅ましくて、狡いと思う。けど、どうしたってそんなの我慢できるはずがなかった。


「なのは。………ごめんね。」


壁に寄りかかっていた身体を引きずるようにして、目の前にやってきたフェイトちゃんは、少しだけ泣きそうな顔で私の髪を撫でた。とても体温の感じない、冷たい手で。


「生まれ変わったら─…って約束、守れなそう。」


だけど、と続けて。泣きそうな顔で笑う。


「私はもうすぐ消えるけど、もしも…もしも奇跡が起きて。」
「ふ、ぇ」
「私がこの次元に生まれ変わったら、きっと会いに行くから。」


他の皆もね、と言って。触れていたフェイトちゃんの手が、砂のように崩れた。


「いやっ!フェイトちゃん──!!!」
「大丈夫だよ。痛くないし。……あぁ、でも。」


置いて逝く方も、これはこれで辛いね、と言ってずるりと力が抜けて、私に寄りかかるように、フェイトちゃんが倒れる。抱えるように抱きしめたフェイトちゃんの奥で、アリサちゃんとすずかちゃん、はやてちゃんが泣きそうな悲痛そうな顔で、フェイトちゃんの最期をしっかりと見ていた。何も言わずに、じっと苦痛を堪えるように。


「なのは。……もう一度、君に会えて、良かった。」
「うん。」
「ずっと、寂しかった。」
「うん。」
「君に会えて、幸せだった。」
「…う、ん。」
「守れなくて……ごめ、ん。」
「今度は、守ってくれたよ。」
「そっか。」


眠るように、目を閉じるフェイトちゃんはとても幸せそうで。とてもその眠りを邪魔なんて出来るはずがなかった。


「フェイトちゃん、眠い…の?」


涙で滲む視界に、彼女の姿を最期まで刻む。子供みたいに「すごく眠い」と言って、フェイトちゃんは恥ずかしそうに笑った。




──君の腕の中で、私はようやく眠ることが出来る。
なんて幸せで、……なんて悲しいんだろうね。



最期に、声にならない彼女の想いと一緒に。腕の中に在った彼女の存在は、砂とも霧とも言えないものになって、消えた。



「馬鹿ね、本当に……。本当に、大馬鹿。」


そう言ってアリサちゃんが涙を拭った。


「フェイトちゃん、えらい格好良かったな…。」
「でも、全然だめだよ。こんな終わり方。」
「………。」


何を言えばいいか分からない。
言葉が出ない。
涙で溢れて、息をするのも辛い。




音のない、廃墟で。
彼女の存在を、どこにも感じない。彼女の痕跡さえない。
それが、1000年も時を超えた物語の終幕だった。

























continue...






テーマ : 魔法少女リリカルなのはStrikerS
ジャンル : アニメ・コミック

コメント

非公開コメント

プロフィール

92

Author:92
なのフェイ信者ですw
初心者ですが宜しくお願いしますorz
あと、一応リンクフリーです(^^);

最新記事
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2拍手記事別ランキング
FC2拍手記事別ランキング
FC2拍手記事別ランキング
twitter
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR