fc2ブログ

空白時間

web拍手 by FC2






「あれ?」


朝起きて、寝巻のボタンが掛け間違っている事に気が付いた。それと同時に二日酔い特有の頭痛と身体のだるさに襲われて、考える事を止めた。

昨日は些か飲み過ぎだったのかもしれない、昨晩の記憶が無いのだから。だけどこうして自分達の部屋で何事もなく朝を迎えられたのは、彼女のおかげなんだろうな…とぼんやり考えた。優秀な執務官である彼女の姿はもう部屋にはなく、自分も準備しなければ…となのはもベッドから起き上がったのだった。








◇◇◇









「お、なのはちゃん。元気か?」
「ぁ…。はやてちゃん。」
「わーお、見るからに二日酔いやね。」
「あぅ…」
「ところでなのはちゃん。」


自分の顔を見るなり走り寄ってきた親友のはやて。そして、苦笑して声のボリュームを抑えて呟いた。なのは自身もはやての言葉に耳を傾ける。


「昨日は大丈夫だったん?」
「え?」
「いやぁ、フェイトちゃんに結構絡んでたやろ?」
「…………。」
「なんよ、記憶に無い…とか?」


全く持ってその通り。昨日フェイトが心配そうに自分を見つめて、「部屋に帰ろう」と言って立ち上がった所までは覚えているのだが……。

と、そこで一握の不安が生まれてしまった。彼女に呆れられるような、嫌われるような事をしていないだろうか…と。


「なのはちゃんにしては珍しく飲んどったなぁ。」
「……そ、そうかな…?」
「何か嫌な事でもあったん?」


嫌な事…ではないけれど、何もなかったと言ったらそうではない。簡単な話だった。昨日見掛けた、彼女と一緒に歩いている誰かに嫉妬したのだ。親友であるフェイトにずっと恋心を抱いていても何の行動も起せず、いつか誰かに彼女を取られてしまうのではないかと考えたらたまらなく不安で、その不安を紛らわそうと、つい飲みすぎてしまった。


「ふぇ、フェイトちゃんに嫌われてないかな…?」
「そういえば、今朝は何や様子がおかしかったなぁ。」
「っ、どんな風に?!」
「何だか暗い雰囲気で、思い詰めた感じやったよ。」



そんなはやての話を聞いて、ますます不安になった。記憶が無い空白の時に何かしてしまったのではないか、と。記憶が無い事がたまらなく不安で――…


「はやて、資料貸して欲しいんだけ…ど、」


そんな時に角を曲がってやってきた自分の想い人。話の中心人物。だが、彼女ははやての隣に居る自分の姿を確認すると、一瞬だけ言葉を止めて…視線を逸らしてしまった。いつもなら視線を逸らしたりなんてしないはずなのに。発見は一瞬で、でも確信した。彼女に何かしてしまったのだと。


「なのは、体の調子…大丈夫?」
「へ?…う、うん。少しだるいくらい。」
「……そう。」


しかし優しい彼女は何事も無かったように自分の体を気遣ってくれる。二日酔いの所為で体がだるい旨を伝えると、彼女は一瞬だけ悲しそうな辛そうな顔をして俯いてしまった。


「なんや昨日の事何も覚えてないらしいよ。」
「…え?覚えて、無いの……?」
「にゃはは、実は――…」


家に帰ろうとしたところまでしか覚えてない事を教えると、微かにフェイトの瞳が揺らいだ。それはどうしてか悲しそうな表情で、だけど何かを悔いているそんな表情だった。


「……そっか、結構飲んでたもんね。」
「ご、ごめん…。」
「………えと、私この後も仕事があるから。」


そのまま、逃げるようにその場を後にしてしまった。そして決定的におかしい事があった。話している間、自分と全く目を合わせてくれなかったのだ。彼女の違和感に言いようの無い不安感と焦りの気持ちが相まって、なのはは深く溜息を零したのだった。












◇◇◇











昨夜は一睡も出来なかった。そして、どうしてあんな事をしてしまったのか、深く……深く後悔した。

だが後悔しても遅く、昨晩フェイトは目の前で眠る最愛の存在に「ごめん」とだけ呟いて、そっとはだけている彼女の服を直したのだった。

酒に酔った彼女に、自分の想いをぶちまけた。確かに彼女からその行為を強請ったことも事実。だけど……フェイトは後悔と自己嫌悪でいっぱいだった。

傍にいるだけで、親友で居るだけで良かった…そのはずだったのに、酔って自分に躊躇なく触れてくる彼女に想いを抑えられなかった。自分も些か酔ってはいたけれど、正気だったのだ。だから彼女には痕を残さなかった。そしてフェイトは自分の鎖骨や胸元に残る、彼女が付けた赤い痕を見つめてそっと指で撫ぞり、ベッドに眠るなのはを残して部屋を後にしたのだった。


そうして仕事へ行き、先ほどはやてに資料を借りようと思って通路で話し掛けた先に彼女を見付けた。

何事もなさそうに微笑んでいる彼女に思わず視線を逸らしてしまって、どうしても昨晩の光景がチラついて──…逃げてしまった。何も覚えていないというなのはに安心した自分に……罪悪感と自己嫌悪でたまらなく嫌気がした。



「はぁ……」

「フェイトさん?」
「あぁ、ティアナ。どうしたの?」
「もう仕事も終わりますし、今日は私がやっておきますよ?」


自分がやるから先にあがっていいですよ、と気を遣ってくれるのだがフェイトは苦笑して首を横に振った。


「今日は此処に泊まっていくつもりだから気にしなくていいよ。ティアナこそ先に上がっちゃっていいよ。」


なのはと同室の部屋で過ごせるはずがない、ましてや同じベッドでなんて──…だから、フェイトは自分の執務室で休む事を決意していた。だけどそれは他からすると些か不自然な事で、当然ティアナは眉を潜める。


「なのはさんとケンカでもしたんですか?」
「うぅん。そうじゃないよ…少し考え事。」
「でも………ここ寒いですよ?」
「平気だよ。」
「はぁ…じゃあせめて、これ使ってください。」


ティアナはそう呆れたように呟いて毛布を貸してくれた。微かに香水の香りがした。


「ありがとう。」


ティアナはフェイトがそう呟いたのに溜息を吐いて、明日は部屋に戻るように言うと部屋を後にしたのだった。








◇◇◇









夕べ、フェイトちゃんが帰って来なかった。

メッセージを送っても「仕事があって─…」とだけ。昨日の彼女は確かにおかしかった。だから問い掛けようと思っていたのに─…もしかして、嫌いになったから、部屋には帰って来たくないとか?そんな不安を抱いては居ても立っても居られなくなり立ち上がる。だがしかし為す術もなくもう一度腰を下ろし、掛けてあったフェイトのシャツに手を伸ばした。

彼女のシャツを抱き締める──…と、そこで一つの既視感を抱いた。フェイトのシャツの香りに、何かを思い出すようなそんな錯覚。……何時かもこの香りに抱かれたような、そんな。思い出せないけれど確かにこの香りに包まれた温かな記憶があった。なのはは手に持っていたフェイトのシャツを戻し、立ち上がった。



─ シュッ



「ぁ。」


だが立ち上がった瞬間に、部屋の扉が開いて驚きの声を上げた。扉の向こう側に立っていたのはフェイトで──…部屋にやって来たフェイト自身も、なのはが部屋に居ることに驚いているような顔だった。


「なのは、今日はゆっくりだったんだね。」


がしかし、すぐに普段通りを振る舞う。やはり違和感。…目を合わせないフェイトに、なのはは胸が痛むのを感じた。


「うん。今日は午後からなんだ。…フェイトちゃんは?」
「私は、ちょっとシャワーだけ浴びに来たんだ。」


ちょっぴり困ったような微笑み。その微笑みに胸が高鳴って─…同時にある事に気が付いた。


「…フェイトちゃん。昨日は、執務室に泊まったの?」
「うん。仕事、溜まっちゃって…」
「そっ、か。」
「…?えっと、シャワー浴びてくるね。」
「うん、いってらっしゃい。」



それは移り香。フェイトの制服から微かに香水の香りが感じられた。微かに甘い、なのはの知らない香水。そしてフェイトを浴室まで見送ったなのはは、言いようの無い不安に胸を押さえる。


自分はただの親友。だから彼女が昨晩何処にいたかなんて詮索する資格も理由も、無い。






《Pipipi……》


「うひゃあっ!」


立ち尽くし、もやもやと考え込んでいたなのはの側で今度はフェイトの携帯が鳴り響く。慌てて携帯を拾い上げ、浴室へと向かった。

フェイトはさっき浴室に向かったばかりだからまだ間に合う、…と。


「フェイトちゃーん、電話だよー!」





─ ガラッ





良く考えたら、最初にノックするべきだった。だけど2人は親友同士で、ルームメイトだからお互いの着替えなんて見慣れていた。恋愛感情は置いておいて。…だからなのはは浴室の扉を開けたのだ。



「ぁ……。」



だから、見付けてしまった。気付いてしまった。フェイトの胸元に咲いた、赤い痕跡に。



白い肌に映える赤。




それは、キスマークだった。

















完。







(´∀`)EDは、恋の抑止力。
続きは、たぶん書く…かな?笑


コメント

非公開コメント

プロフィール

92

Author:92
なのフェイ信者ですw
初心者ですが宜しくお願いしますorz
あと、一応リンクフリーです(^^);

最新記事
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2拍手記事別ランキング
FC2拍手記事別ランキング
FC2拍手記事別ランキング
twitter
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR